QUOTATION

MUM&GYPSY 15th anniversary year vol.2:cocoon ―コクーン―

劇作家・藤田貴大率いるマームとジプシーの設立15周年を迎える本年、漫画家の今日マチ子による『cocoon』を原作に、沖縄戦に動員される少女たちに着想を得た作品が、7月からの東京公演を皮切りに全国9都市にて上演される。

2013年の夏に製作・発表された本作は、少女たちの賑やかな日常が戦争によって否応なしに死と隣り合わせの日々へと変わっていく様子を、切実さを持って描かれた。2015年には東京芸術劇場とマームとジプシーにより、沖縄含む全国6都市ツアーが開催され、翌年には、本作にて藤田が第23回読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞した。

本作は当初、2020年夏に全6都市を巡るツアーの開催が予定されていたが、新型コロナウイルス感染拡大予防の観点より全都市の公演が中止。そこから藤田らは上演に向けて作業を続け、再演から約7年の月日を経て、待望の上演が実現。その断片を「cocoon works」として公演特設サイトで公開していく。

 

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「cocoon」公演特設WEBサイト:http://mum-cocoon.com

cocoon woks 1
:今日マチ子のイラストやオーディション風景のスケッチ、バンド・クラムボンのボーカルと鍵盤担当の原田郁子による音楽・イラストが添えられた「とぅまぁでぃ」の歌詞、ライターの橋本倫史によるマームとジプシー『cocoon』を再訪する、藤田貴大の言葉を掲載。

cocoon woks 2
:出演者の「海」に纏わる記憶を藤田がテキスト化。出演者の朗読に原田郁子が音・音楽をつけた映像作品を発表。藤田のテキストをもとに、今日マチ子がそれぞれのイラストを描きおろす。

cocoon log
:ライター・橋本倫史が2020年7月からのcocoon woksの様子を「cocoon log」として紹介。藤田や出演者、スタッフそれぞれが、どのように作業を重ねてきたか、その過程が綴られている。

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2013年「cocoon」に取り組み、沖縄に出会った藤田は、その後も頻繁に沖縄へ足を運び、「今」という時間を見つめてきた。2022年2月には、那覇文化芸術劇場なはーとのこけら落としプログラムとして、藤田の最新作「Light house」を劇場と共同で製作し、発表。その製作期間中には、ソーセージ・チーズ・ビール・パン屋などの製造業の方々、小書店・カフェのオーナー、沖縄の雑誌編集長、那覇でホテルを経営する建築家など、現地で実際の営みの場を持つ方との対談を実施。また、沖縄在住の方を対象としたZoomワークショップを開くなど、沖縄に住む方々と出会い、多くの対話の場を設けてきた。こうした時間を重ねて生まれた作品「Light house」では、人々の記憶や歴史の断片を「水の流れ」と結びつけて舞台を展開させた。

作品タイトルに添えられる「現在、そのあとの世界をどうして生きるか」という言葉。沖縄戦から77年が経ち、世界中で戦争が起きている今の時代を暮らす我々は、どのような未来を描いていくのであろうか。

インタビューや書籍・資料からの情報だけではなく、「Light house」の発表を経て、藤田自身が体感した現代の沖縄に流れる時間も含め、改めて「cocoon」という作品が描かれる。

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いつだってずっと、もう何年も。どこか内側に在るシーンというシーンは、眼裏で目まぐるしくリフレインしている。最速のスピードを持って、脳内を駆けめぐる。

あの季節の、あの湿度のなかを走りつづけている。もしくは、歩いている。校舎のなかを。休み時間、教室から教室へ。廊下を、歩いている。なんともない日々の眺め。しかし、その平穏さが一変する瞬間。いつのまにか忍びよっていた影に気づかずに、ある瞬間。いとも簡単に内側は壊されて、破裂した。

わたしたちは、終わることのない”cocoon”のなかを生きている。生きるしかない。

どういう音のなかで。どんな感触を持って。わたしたちは歩くだろう。走るだろう。旅にでたわたしたちは、どこでだれと出会って。なにを想うだろう。出会っただれかのなにかに、触れることはできるだろうか。

現在、変わることのなかったこの世界を生きて。あのあとの、そのあとの世界をどうして生きるのかという問いに抗いながら、でもやはり生きて。なにを想像するだろう。

もうとっくに内側は、空想の繭は破裂している。外に放り出されて、ただ立ち尽くして。なにを見つめて。耳を澄ませて。想像するか。

歩いて、そして走る。届くはずのない足音がここまで届いている気がするから。

2022.4.25 藤田貴大

 

公演情報

MUM&GYPSY 15th anniversary year vol.2
「cocoon」
原作:今日マチ子(「cocoon」秋田書店)
作・演出:藤田貴大(マームとジプシー)
音楽:原田郁子

出演:
青柳いづみ 菊池明明 小泉まき
大田優希 荻原綾 小石川桃子
佐藤桃子 猿渡遥 須藤日奈子
高田静流 中島有紀乃 仲宗根葵
中村夏子 成田亜佑美

石井亮介 内田健司 尾野島慎太朗

[東京]2022年7月9日-17日|東京芸術劇場 プレイハウス
[長野]2022年7月23日-24日|サントミューゼ(上田市交流文化芸術センター)小ホール
[京都]2022年7月30日-31日|京都芸術劇場 春秋座(京都芸術大学内)
[愛知]2022年8月6日-7日|穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
[福岡]2022年8月14日|北九州芸術劇場 中劇場
[沖縄]2022年8月20日-21日|那覇文化芸術劇場なはーと 小劇場
[埼玉]2022年9月2日-4日|彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
[北海道・伊達]2022年9月17日|だて歴史の杜カルチャーセンター
[北海道・士別]2022年9月23日|あさひサンライズホール

 

プロフィール

今日マチ子
東京都出身。東京藝術大学、セツ・モードセミナー卒。自身のブログで、ほぼ毎日更新している1ページのショートマンガ『センネン画報』が単行本化され注目を集める。2005年に第1回「ほぼ日マンガ大賞」入選。2010年に『cocoon 』、2013年に『アノネ、』がそれぞれ、文化庁メディア芸術祭「審査委員会推薦作品」に選出。その他の作品に『みかこさん』『みつあみの神様』『ぱらいそ』『百人一首ノート』『夜の大人、朝の子ども』『Distance わたしの#stayhome日記』など多数。

藤田貴大
マームとジプシー主宰/演劇作家。1985年生まれ。北海道伊達市出身。2007年、演劇ユニット「マームとジプシー」を旗揚げ。以降全作品の作・演出を担当。2011年6月~8月にかけて発表した三連作「かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと、しおふる世界。」で第56回岸田國士戯曲賞受賞。著書に『おんなのこはもりのなか』、『Kと真夜中のほとりで』、『mina-mo-no-gram』(今日マチ子との共著)『蜷川幸雄と「蜷の綿」』(蜷川幸雄と共著)他。20年7月初の小説集「 季節を告げる毳毳は夜が知った毛毛毛毛」(河出書房新社) を上梓。

原田郁子
1975年福岡生まれ。1995年にスリーピースバンド『クラムボン』を結成。歌と鍵盤を担当。
1999年にシングル「はなれ ばなれ」でメジャーデビュー。バンド活動と並行して、さまざまなミュージシャンとの共演、共作、楽曲提供、ソロ活動も精力的に行っており、これまでにソロアルバム「ピアノ」「気配と余韻」「ケモノと魔法」「銀河」を発表。2013年より劇団『マームとジプシー』の舞台「cocoon」、「めにみえない みみにしたい」、「かがみ まど とびら」の音楽を担当。

 

 

 

 

 

 

June 6,2022

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