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映画「春江水暖」杭州の風景に漂い中国社会を観る

text by Asako Tsurusaki

 

ここ近年、中国の若手作家の躍進がめまぐるしい。チェン・カイコーやチャン・イーモウを文化大革命の嵐が去った中国の荒涼を描き出す「第五世代」、またロウ・イエやワン・シャイシュアイなどを現代中国の矛盾や生きづらさを映し出す「第六世代」とするならば、いま新たに中国ニューウェーブの「第七世代」が巻き起こっているのかもしれない。デビュー作にして遺作となった『象は静かに座っている』のフー・ボー、『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』のビー・ガン、そして『春江水暖』のグー・シャオガン。彼らはみんな20代にデビューを迎え、その成熟したスタイルで世界中の映画祭で新鋭中国映画の存在感を轟かせている。

 

中でも公開が始まったばかりの『春江水暖』は、その驚くべきロングショットのテクニックでヌーヴェル・ヴァーグが世界に気づかせた映画の中での「時間」や「風景」という主人公を映し出している。観ている者は自然と焦点が風景に溶け込み、浮遊しているような感覚を得ることができる。

 

監督によると、本作のタイトルとなっている「春江水暖」とは、中国山水画の傑作「富春山居図」からインスピレーションを得ているという。空間を表現する伝統的な西洋の風景がと違い、中国は時の永遠や空間の無限を表現している。それらを記録するために、時間と戯れることを試みている。「富春山居図」の画家、黄公望は常に絵画の焦点を変化させ、鑑賞者は絵画の中を流れ浮かんでいるような感覚を得ることができる、と。

 

物語の舞台は監督の故郷である杭州の富陽。一族の長である母・ユーフォンとその四人兄弟、そしてその孫に至る三世代が生きる日常の移ろいが綴られる。そこには現代中国女性と「家」への帰属性、血族の結束、郊外の貧困と闇社会の繋がりなど、様々な問題が世代によって層を変えて変遷してゆく。

中国を流れる悠久な時間の感覚を可視化した本作は、驚くべきことにグー・シャオガン監督のデビュー作。色濃く続く血の繋がりと、土地の持つ果てしない記憶。この当たり前に続いてきたかに見える時間の奇跡を、2時間半後に感じることができるだろう。

 

『春江水暖』(中国/2019/150分/監督・グー・シャオガン)
ル・シネマほか全国順次公開中
http://www.moviola.jp/shunkosuidan/

 

 

 

 

 

February 13,2021

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