アーティスト 梶岡亨 インタビュー
interview : toru hachiga

(c) TORU KAJIOKA(梶岡亨)800x800mm
11月15日から11月28日まで、上海の「TOKYO PAN GALLERY」でアーティスト梶岡亨の個展が開催されている。日本画に使われる画材をメインに使用し、コラージュされた重厚感あふれる彼の作品は、日本的、日本人だからという言葉だけでは伝えきれない不思議な魅力を持っている。
今回の上海の展覧会に続き、今後は北京、パリ、ニューヨークなどでの展覧会も予定されているという梶岡亨。まだ日本ではあまり知られていないが、精力的に活動を続けているアーティストのひとり。彼の絵にかける情熱、そして活動内容、そしてバックグラウンドを今回はインタビューさせてもらった。
■絵を描こうと思ったきっかけを教えてください。
子供の頃、祖父が『ニューシネマパラダイス』みたいな映画館を運営していて、映画館の看板を描くおじさんの作業場や映写室で遊んだり、アートには小さい頃から興味を持っていました。映画監督になりたいとも思いましたが、看板屋さんの影響のほうが強かったのかもしれません。高校の時に石膏デッサンを教えていただいた行動美術協会の故阿部平巨先生の影響もあって、武蔵野美術大学の油絵科に進んだところからライフスタイルとして絵を制作するようになりました。
■これまで主にどういった活動をしてきたのでしょうか?
学生時代と卒業してから、銀座の『ルナミ画廊』を中心に数回個展をやりました。FASHIONに興味を持ち、『YELLOW RUBY?』というネーミングをひねり出し裏原宿のセレクトショップを作りました。友人の稲葉秀樹氏に作成してもらったYELLOW RUBY LOGO Tシャツが、かなりブレイクしました。イエロールビーのバイイングでヨーロッパに行く機会が増えて、その時に知り合ったフランスのジャーナリストのマリアの紹介で、パリの『L’HABILLEUR』で個展をやったのですが、それがきっかけで絵を購入してくれるお客様ができて、そこから絵を描き続けています。その後、大学の時にバイトで習得した建築パースペクティブのテクニックをベースに店舗設計デザインを手がけるようになりました。ファッション関係が多かったですね。『BIGI』『FILA』『KENT』、『Kohsuke Tsumura by ISSEY MIYAKE』や、中国の『METERSBONWE』(ディレクション)のショップデザイン設計などです。他にWebやグラフィックデザインは『APPAREL-WEB』のディレクターとして、『JFW』(東京コレクション)、『FILA』、『ROSEBUD』などの制作にも関わりました。最近では、『FROGs』というアソシエーション(with 古川泰司氏、石山秀樹氏)をスタートして、Vintage Woodをベースにした家具デザインやリノベーション設計をしています。
■今回の展覧会について、コンセプト、そしてどのような作品を展示するのでしょうか?
Steve Reichの不規則に変化し続けるリズムのミニマルミュージックや、RCRのコールテン鋼の錆びたディテールの上に映し出される陰影やLuis Barraganの内側から拡がっていくような空気感、尾形光琳の金箔と緑青のカラーが美しい屏風や長沢蘆雪、狩野探幽の酸化した銀箔が僅かに残っている侘び寂び感ある襖絵のイメージを再構築したイメージです。どちらかというと江戸時代の日本画で使われる伝統的な画材を使ってコンテンポラリーで重量感あるビジュアルをテーマにしました。計算された素材の重なりと、偶然生まれる素材の重なりのリミックスを正方形をメインにしたミニマルな画角で表現しています。また、茶室で見られる台目畳の一畳に満たないサイズ感を用いて日本的な情緒を出したいと考えました。茶の湯をいただく茶室の中に一日座した時に感じる陽光の移ろいが作る陰影を表現したかったのです。
■一見すると、金属的な質感がありますが、どのような素材を使っているのでしょうか?
日本画で使われる岩絵の具系の顔料と、洋画で使われる溶剤を組み合わせています。漆、緑青、金箔、銀箔、金・銀粉、鉄粉、水晶分と、パンドル、ルツーセ、そしてオーソドックスなジンクホワイト等です。その他、エポキシ樹脂も使用しています。また、讃井隆治氏の写真を使用させていただき、和紙にプリントをしたフォトコラージュとグレイジング的な技法をアクリル板上で描き、LEDバックライト照明で発光させた作品もあります。
■中国のギャラリーでの個展とのことですが、日本のギャラリーとの違いはありますか?
今回は、中国でプレスをしている歓歓さんに上海のTOKYO PAN GALLERYのオーナーの藩守智氏をご紹介いただきお会いしたところとても気が合い、個展を開催することになりました。藩氏は、以前東京の恵比寿でギャラリーを運営していた方で、日本の現代美術に精通していたのもよかったです。日本のギャラリーとの大きな違いは、やはりスペースの広さでしょうか。大きな作品を連作で見せることができるのでテーマを表現しやすいと思いました。
■絵を描いているうえで、これまで影響を受けたこと、人はありますか?
影響を受けたものはかなり多岐にわたっています。長沢蘆雪の「竹に月図」、聚光院にある狩野探幽の襖絵。Mantegnaのミラノのブレラ美術館にある「死せるキリスト」やVan Eyckの「赤いターバンの男の肖像」。Alberto Giacomettiのデッサン。靉光の自画像。京都の三十三間堂にある婆藪仙人。古唐津・瀬戸、古田織部の呼継の茶碗。古伊万里の絵皿。千利休の妙喜庵にある茶室「待庵」。スペインの建築グループRCR、Luis Barragan、トルコのブルサにあるYesil Camii、Le Corbusier。音では、Steve Reich、Meredith Monk、John Cage、Adrian Sherwood、Augustus Pablo、John Lurie。映画では、Wim Wenders、Theo Angelopoulos、Sergio Leone、Jim Jarmusch、Jacques Tati、Jean-Jacques Beineix。書籍では、Jean-Philippe Toussaint、Antonio Tabucchi、Paul Auster、大江健三郎。本当にいろいろなモノや人に影響を受けています。
■今後の活動予定について教えてください。
今月11/15(土)から11/28(金)まで、上海のM50にある『TOKYO PAN GALLERY』で、個展があります。
その後、北京、パリ、ニューヨーク、香港、シンガポール、東京で、個展を行なっていく予定です。
また、FROGsブランドで家具デザインやリノベーション設計を展開していきます。
■最後に、なぜ絵を書き続けているのでしょうか?
絵を制作するスリルにはまっているからだと思います。
▪️追記
今回、中国(上海)での個展ということで、東京都市大学(共通教育部 人文・社会科学系)准教授の岡山理香さんによる制作作品評を、原文、中国語訳(翻訳:歓歓氏)の一部を紹介。(全文はhttp://torukajioka.com/にて掲載予定)
『白土啟明之時』
中国語訳/歓歓
東京都市大学(共通教育部 人文・社会科学系)准教授、岡山理香
關於繪畫
繪畫的目的是不明確的。
如果能明確的話―比如,在實際看到的東西中加入靈感,又比如用特殊的配置將色彩和模樣調配成愉悅人的視覺或精神的東西的話,那麼問題就簡單多了,符合這种目的的作品一定比現在還要多的多,但是反過來,無法用語言表達美的作品也會隨之消失。
換言之,那些具有玩味不盡美感的作品将会不复存在。
保尔·瓦雷里
梶岡亨的作品具有這種玩味不盡的美。與其說是畫家,倒不如說是一名畫匠用了各種材料組合成了這組作品,給觀賞的人帶來一種從未體驗過的懷舊感。將自己融入其中,同畫面共呼吸。亦或是沐浴在發光的油畫中,自由地馳騁在想像中。
此次的作品集把正方形和矩形作為油畫的支持體,通過相互巧妙的組合將有形的世界抽象化。支持體的表面呈現了他那被抽象化了的思考和経験。除了自然之外,從建築和雕刻的人工化三次元現象得到靈感進行的製作點也值得關注。
〈絵画的生命〉
對於所有的物質來說,富有更高比例的「生命」是最珍貴的事。
约翰·拉斯金
和江戸時代時期制作的「風神雷神図屏風」的俵屋宗達和尾形光琳的不同點是躍動感,也就是說充滿了「生命」這一點。梶岡的作品也充滿了「生命」這一點。但是,卻用了一種壓抑的表現手法。對觀者來說,能靜下心來觀賞。
說起來這裡面既沒有描繪風神也沒有雷神,雖然放棄了使用対象的再現,但是很明確的可以體會到在地平線上響起的雷鳴。這一瞬間的存在感表現在画面內部無法動搖的堅固構成中。
光琳的「風神雷神図屏風」在思考之外,帶來的雅致感大概是由於「華麗」這種強迫観念。宗達遠離了那種感覺,在繪畫裡注入了生命。梶岡也杜絕這種強迫観念,將油畫放置在地板上,快速地用筆直截了當地進行創作。
若我們了解俵屋宗達以来的歴史,便能被梶岡的作品魅力所征服。但是即使無法了解歷史,也可以感知到潛藏在畫面中無限的能量。為何呢?因為這些都是畫家把自己的內心想法通過靈感的主體,從源泉開始,經過自己積累的意識性的判斷,體現為具體的實物。
藝術的體驗是藝術家在通過自己的經歷之後形成了自己的感悟並將積蓄的無意識融入到作品中,傳達一種征服我們的力量。這種個人體驗不久便形成一種共同意識,從而形成一個新世界。這也未必是個性。個性有時其實是一件非常危險的東西。趙無極的稀有的作品中,受到了保羅·克利的影響,然而克利的作品中也反映了中國繪畫的傳統。
比起個性(原創)更重要的是世界性。
保尔·瓦雷里
21世紀的今天,讓我們再一次尋求藝術所追求的東西,以及梶岡前進路上追求的東西。白土啟明,遙遠處充滿光亮,枯木生新芽。
『白土の闇があけるとき』原文
東京都市大学(共通教育部 人文・社会科学系)
准教授:岡山理香
〈絵画について〉
「絵画の目的は判然としない。
もしそれが判然としていたら、―たとえば、実際に見た物のイリュージョンを与えるとか、または、色彩と模様との特殊な配置によって人の目または精神を楽しませるとかい うことだったら、問題はもっと簡単になり、この目的に合った作品は今日よりも、もっと多くなるはずだが、そのかわり説明のできない美しさのある作品はなくなるわけだ。つまり、汲んでも汲んでも汲みきれない美しさを持った作品はなくなるわけだ。」
ポール・ヴァレリー
梶岡亨のつくりだす作品は、この汲みきれない美しさを持っている。さまざまな画材の組み合わせによって、画家というよりはむしろ絵師のような姿勢で制作された作品群は、観る者に、経験のない懐かしさを感じさせる。そこに身を沈めて、画面とともに呼吸する。あるいは、発光するキャンバスに照らされ、自らに思いを馳せることもできる。
今回は、正方形と矩形のキャンバスを支持体とし、それぞれを巧みに組み合わせ、有機的な世界を抽象化させた作品群を現出させた。支持体の表面には、彼の思考や経験が抽象化されたものがあらわされている。自然(nature)のみならず、建築や彫刻といった人工的な三次元の現象にもインスピレーションを得て制作されている点にも注目して見てみたいと思う。
〈絵画の生命〉
「すべての物質は、「生命」の満ちている程度に比例して尊いものとなる。」
ジョン・ラスキン
江戸時代に制作された「風神雷神図屏風」における俵屋宗達と尾形光琳の違いは、躍動感であるが、それはすなわち「生命」がいかに満ちているかの違いでもあると言えよう。梶岡の作品にもその「生命」が満ちている。しかしながら、それは抑制的に表現されているので、観る者は心静かに対面できるのである。
けだし、ここには風神も雷神も描かれてはいない。対象の再現は放棄されているのだが、それにもかかわらず、あきらかに地平線に曉と雷鳴が轟いている。瞬間的な(ephemeral)存在が画面の底にある揺るぎない堅固な構成の中に表象されている。
光琳の「風神雷神図屏風」が思いのほかこぢんまりとしているのは、「きれい」という強迫観念に捕われてしまったからなのかもしれない。宗達は、そこから遠く離れて、絵画に生命を吹き込んだ。梶岡もそうした強迫観念とは無縁に、キャンバスを床に置き、その筆運びは迅速で闊達で直截的である。
私たちは、俵屋宗達以来の歴史を知るゆえに梶岡の作品により魅かれる。しかしながら、その歴史を知らずとも、画面に潜在する無限のエネルギーを感得することはできよう。なぜならば、これらが作家の内面的な現実をインスピレーションの主体とし、無意識の源泉から意識的な判断の流れによって、具体物として現されているからである。
芸術の体験は、作家の活動全体から吸収されたすべてを通して必然的に蓄積された無意識を作品へと彫琢する力量を私たちに知らしめ、それに感服させられる。その個人的な体験はやがて共有され、新しい世界がつくられ始める。それは、必ずしも個性的とは限らない。個性とは危ういものでもある。ザオ・ウーキーの希有な作品の中には、パウル・クレーの遺産が受け継がれているのだが、クレーの作品の中には、中国絵画の伝統が反映されている。
「個性(オリジナリテ)以上に尊いものがある、それは世界性(ユニヴェルサリテ)である。」
ポール・ヴァレリー
21世紀において、もう一度、私たちが芸術に求めるもの、そして、梶岡が進むべき道に望むものである。白土の闇はあけ、遥かに遠く光が満ち、枯れ野に木々が芽吹きはじめる。
ポール・ヴァレリー『文学論』堀口大學訳 角川書店 1955年
ジョン・ラスキン『建築の七燈』杉山真紀子訳 鹿島出版会 1997年
ポール・ヴァレリー『ヴァレリー・セレクション 上下』東宏治・松田浩則訳 平凡社 2005年
▪️展覧会インフォメーション
TORU KAJIOKA(梶岡 亨)
Exhibition at TOKYO PAN GALLERY(東京潘画廊)
from Saturday Nov. 15 to Friday Nov. 30
reception party 17 : 30 Saturday Nov. 15
TOKYO PAN GALLERY(東京潘画廊)
Address : 3F , Bldg 1 , 50 Moganshan Rd , Shanghai , China 200060(上海市莫干山路50号1号楼301室)
Tel : +86-21-62082759
Email : info@tokyopangallery.com
URL : http://www.tokyopangallery.com/
Director : 藩 守智
Toru Kajioka/梶岡 亨 – PROFILE
武蔵野美術大学油絵学部卒業後、ルナミ画廊(Lunami Gallery/GINZA TOKYO JPN)、L’HABILLEUR(PARIS FRANCE)、岩田屋デパート(Iwataya department store/FUKUOKA JPN)、YELLOW RUBY(OMOTESANDO TOKYO JPN)、Waithera(FUKUOKA JPN)、 EBISU 303 studio(EBISU TOKYO JPN)、武蔵野美術大学(Musashino Art University/KODAIRA TOKYO JPN)等で個展を行う。
tk@torukajioka.com
http://torukajioka.com
November 7,2014

TORU KAJIOKA(梶岡 亨) Exhibition at TOKYO PAN GALLERY(東京潘画廊) from Saturday Nov. 15 to Friday Nov. 30

“YELLOW RUBY?” graphic by 稲葉秀樹、interior design by 梶岡亨 (c) TORU KAJIOKA(梶岡亨)1800x700mm 三福対 (c) TORU KAJIOKA(梶岡亨)800x1600mm (c)

(c) TORU KAJIOKA(梶岡亨)1800x700mm 三福対

(c) TORU KAJIOKA(梶岡亨)800x1600mm (c)

(c) FROGs - Sierra style table -