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山形国際ドキュメンタリー映画際2013レポート

text : Asako Tsurusaki

「山形国際ドキュメンタリー映画際2013」ポスター

写真提供:山形国際ドキュメンタリー映画祭事務局

 

 

 

 

2013年10月17日、アジア初の国際ドキュメンタリー映画際として始まった「山形国際ドキュメンタリー映画祭(YIDFF)」2013が8日間の穏やかな盛り上がりを経て閉幕した。他では観ることの出来ない世界の最新ドキュメンタリー映画をいち早く上映するだけでなく、人々の交流を通して国際的なネットワークを育んできている同映画祭。普段は静かで小さなこの街が、この時ばかりは映画を愛する人達と映画作家がすれ違うことが出来るお祭りとして、業界人のみならず多くの映画ファンにとって2年に一度のお楽しみとなっている。

 

YIDFFの2本柱である世界中から厳選された「インターナショナル・コンペティション」とフレッシュなアジアの才能を見出す「アジア千波万波」に加え、今年は「アラブの春」というひとつの言葉では言い表しきれない、人それぞれの関わり方や解釈を問う「それぞれの『アラブの春』」が特集され、イエメン、チュニジア、エジプトの春またはその後を見せてくれた。他にもドキュメンタリー作家が目の当たりにする倫理的な観点を探求した「6つのまなざしと <倫理マシーン>」や、昨年亡くなった巨匠クリス・マルケル特集の「未来の映画の記憶のために — クリス・マルケルの旅と闘い」、震災や山形と映画に関する公開討論会やワークショップなど、作家と観客が直接交流出来るプロジェクトも多く企画された。

 

 

ドキュメンタリーの持つ多様な表現の可能性を教えてくれるYIDFF。2013上映作品より、いくつか印象に残った作品をピックアップ。

 

 

 

 

 

『パンク・シンドローム』
一つ目は、観客の投票によって選ばれる市民賞を受賞した、ユッカ・カルッカイネン&J-P・パッシ監督による『パンク・シンドローム』。知的障害を持った4人組による人気パンクバンド「ペルティ・クリカン・ニミパイヴァト」の日常をユーモアたっぷりに描いたこの作品は、メンバーのあらゆる感情があらわに魅力的に綴られている。既に多くのパンクファンに愛されているスターである彼らの、LIVEや楽曲発売の活動を軸に、喧嘩、恋愛、趣味に活き活きと生活する様を観ることが出来る。「この作品は、このメンバー四人の魅力があってこその作品です。観客はこの映画を観て、彼らを笑いの対象にすることもありますし、彼らと共に笑うこともあるでしょう。しかし楽しいだけの作品と観られることに、リスクは感じるべきだと思っています。例えば、メンバーの一人が排泄を失敗したりヌードを真正面に撮ったりするシーンを意図的に入れていますが、それは観ている人達になんだか居心地が悪く感じてもらい、問題意識を持ってもらうためにそうしたのです」。これまでカナダやリトアニア、コソボやスイスなど、いくつもの映画祭に同行したという「ペルティ・クリカン・ニミパイヴァト」。日本に来る予定は今のところ未定だが、ぜひ実現出来ることを願う。

 

 

 

『エクス・プレス』
活きのいいアジア映画マーケットの中でもこれまで日本に劇場公開される機会が少なかったフィリピン映画だが、2005年よりフィリピン文化センター(CCP)が運営するシネマラヤ基金がインディーズ製作への支援が始まり、フレッシュな才能を持ったフィリピンの映像作家が海外で活躍し始めている。YIDFFでも力を入れている「アジア千波万波」では、今回計3本のフィリピンからの作品が紹介された。その中でも異才を放っていたのがジェット・ライコ監督による『エクス・プレス』。1986年生まれの若き監督は、土砂災害で立ち往生したフィリピン国有鉄道、ビコール・エクスプレスに乗り合わせていた経験をきっかけにこの作品を製作した。新型列車を導入した本列車は、本来ならこの運転で華々しくメディア関係者にその勇姿が報道されるはずであった。しかしこの事故で明るみになった、鉄道線路の脆さ、不法居住者、ある鉄道警察にまつわるインタビューを通して、フィリピンの歴史が寓話的に紡がれていく。ビクトル・エリセを彷彿とさせる神話的な質感の映像と生々しい人々の声が重なり合う、観たことの無いタイプのフィルム。「ある街の野蛮な物語を披露してくれた男と会話を交わした後、私はジャーナリストとしてよりも、フィルムメーカーとしての性格を強めることになった」。そこにある物語と現実を、自分のフィルターに通して物語に再構築する、アートと政治が絡まることに成功した作品だ。

 

 

 

『気乗りのしない革命家』
「それぞれの『アラブの春』」で紹介された、イエメンで「アラブの春」に巻き込まれたひとりの現地観光ガイド、カイスを追った『気乗りのしない革命家』。反政府デモによりビジネスや妻・家族との関係もうまくいかず、デモに対して懐疑的な姿勢を見せていたカイス。そんな彼が徐々に高まる緊迫した革命の空気や政府によるデモ隊への発砲を目の当たりにし、変化していく様を時折ユーモラスに、しかしリアルに描いていく。そしてイギリス人のショーン・マカリスター監督は、カイスが少しずつ変わっていく様子を親身に映像に収めつつ、自身も警察に追われたりと革命を体験していく。作品内でカイスが見せるデモへの懐疑的な姿勢は、原発や政治に真っ向から立ち向かう人達に対して自らのスタンスを決めかねている、多くの日本人の姿とよく似ている。「私は自分をジャーナリストと思ったことはありません。映像作家だと思っています」。この作品から観客が得るもの。それは世界が変わっていく貴重な瞬間を見届けると同時に、ひとりの人間が変わって行くことが出来るという普遍的な可能性、正義とはなにかを考えさせてくれる。

 

 

 

『サンティアゴの扉』
最後に、「インターナショナル・コンペティション」で優秀賞を受賞した、チリのイグナシオ・アグエロ監督による『サンティアゴの扉』。YIDFFでは『100人の子供たちが列車を待っている』や『氷の夢』で定評にある監督が今回選んだテーマは、自分の家だった。監督はある日、壁に貼った若き両親の写真に陽光が指しているのを見つける。それをきっかけに、自宅に訪れた訪問者達の日常に入り込み、慣れ親しんだサンティアゴの街の地図を描いていく。訪問者による呼び鈴をきっかけに、彼らをピースにした街の地図が自宅より作られ始める過程を描いた作品。

(*優秀賞「サンティアゴの扉」イグナシオ・アグエロ監督のインタビューは次回紹介)

 

 

 

YIDFF2013の受賞作品は以下の通り。
「インターナショナル・コンペティション」では、難民キャンプの現実に迫ったマハディ・フレフェル監督『我々のものではない世界』が大賞を、殺人部隊のリーダーと出会った映画作家が彼らの殺人行為を再演・映画化したジョシュア・オッペンハイマー監督の『殺人という行為』が最優秀賞を受賞。また優秀賞には、実際に起きたルーマニア不法移民射殺事件を独自に「映画的検証」したフィリップ・シェフナー監督の『リヴィジョン/検証』と、監督の自宅を訪れた人達の日常を通して故郷サンティアゴの街と自身の家族の歴史を交錯させたイグナシオ・アグエロ監督『サンティアゴの扉』が受賞した。そして「アジア千波万波」では、かつてヴェトナム戦争時に対立していた隣人達が共生する小さな村に住む老婆ブアさんの日常と記憶を描いたズーン・モン・トゥー監督『ブアさんのござ』が小川紳助賞を受賞。観客の投票による市民賞には、フィンランドの知的障害を持った4人組による人気パンクバンドの日常を描いたユッカ・カルッカイネン&J-P・パッシ監督『パンク・シンドローム』と沖縄の基地問題に抗う住民達を描いた三上智恵監督『標的の村』が選ばれた。

 

 

 

 

http://www.yidff.jp/home.html

 

 

 

 

 

 

 

 

 

October 29,2013

「パンク・シンドローム」

『エクス・プレス』

『気乗りのしない革命家』

YIDFF2013表彰受賞風景

YIDFF2013会場風景