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「ソフィ カル ― 最後のとき/最初のとき」 レポート

text & photo : UMMMI.

「最後に見たもの」2010 年、カラー写真 ©ADAGP, Paris 2013

 

 

 

驚くべきほどに静謐で、繊細な展覧会だった。

 

東京・品川の原美術館で行われているフランスの現代美術家、ソフィ・カルの個展。彼女は主に写真とテキストを用いて制作しており、個人的な出来事や契機などを元にした物語性の高い作品で知られている。過去にはテートギャラリーやポンピドゥー・センターをはじめとする各国の主要美術館での個展開催や、第52 回ヴェネツィアビエンナーレへの参加など、フランスを代表する作家の一人である。

 

14 年前に原美術館で開催された「限局性激痛」(1999 年)は、人生最悪の日までの出来事を手紙と写真で綴った第一部(カウントダウン)と、その不幸話を他者に語り、同時に相手の最も辛い出来事を聞くことで自分の心の傷を少しずつ癒していく、写真と刺繍されたテキストで構成された第二部(カウントアップ)から成る作品である。ソフィが「作品を作ることは、時としてセラピーの役割をしている」と語っているように、その痛々しいまでのテキストに加えて美しい写真と刺繍を目にした鑑賞者の多くは、彼女によるあまりにも真摯に人生と向き合う作品に心を揺さぶられたことだろうと思う。

 

今回展示されている作品は、失明した人々を取材して写真とテキストで綴った「最後に見たもの」(2010 年)、初めて海を見る人々の表情を捉えた映像「海を見る」(2011 年)の二部構成で、どちらも視覚と認識ということをテーマに考察している。

 

「最後に見たもの」は、ソフィがイスタンブールで滞在制作をしている時、そこが古くからの伝承で盲目の街と呼ばれていることを知り制作された。彼女は過去に「盲目の人々」(1986 年)という、生まれつき目の見えない人にこれまでに見た最も美しいものは何かと問う作品を制作していたこともあり、不可視性というものについて考えていたことも理由のひとつであるように思う。「最後に見たもの」では失明した人が語った実際の光景と同じもの、或いは近いものを選び、リアリティを自分の中に持たせながら制作をしたと言う。

 

「海を見る」では、社会からある種排除されているとも言える貧困層の人々の中に、海を見たことのない人がいるという記事を新聞で読んだことがきっかけとなり制作された。この作品では背中で語るかのように被写体が真後ろから捉えられているが、実際の撮影の時は横から捉えようと試みたこともあったそうだ。しかし考えた末に、あまりにも被写体との親密な空間に入り込みすぎていると感じたことにより背後からの撮影となった、ソフィらしい距離感と緊張感のある作品のように思う。

 

ソフィ・カルは、「最後とは、誰もが共有できない個別の瞬間であり、そしてそれは極めてポエティックだ」と語っている。恋人とアメリカ横断に出かけ、結婚そして離婚するまでを限りなく私的に描いたドキュメンタリータッチの映画「ダブル・ブラインド」や、交際相手の男性から届いた〈別れの手紙〉を国籍や人種の異なる107 人の 女性に読ませる写真と映像で構成される「どうか元気で」など、ソフィは視覚のみならず、様々な感情も含めた最後というものにこだわり続けている。親密な関係にあった人と別れるということ、自由に使えている五体が不自由になることで自分の身体と乖離してしまうことは、当たり前だが一生忘れることの出来ないひどく辛い事件である。そしてそれらを痛々しくも鮮やかに、時としてユーモアを加え真剣に描くソフィの、圧倒的に優れた物語性が彼女の魅力の最たる部分だとも言えよう。

 

今回の展覧会で観ることの出来る、インスタレーション的に配置されたテキストと写真、そして美しく整列した映像作品群からは「最後」を真摯に受け止めて経験してきたソフィ・カルの、どこか達観したかのような静けさ、そして彼女らしい物語性の片鱗に触れることのできる展覧会である。

 

 

 

 

「ソフィ カル―最後のとき/最初のとき」
会期:2013 年3 月20 日(水・祝)- 6 月30 日(日)
会場:原美術館 東京都品川区北品川4-7-25
時間:11:00 -17:00 (3 月20 日を除く水曜は20:00 まで/入館は閉館時刻の30 分前まで)
休館日:月曜日(祝日にあたる4 月29 日、5 月6 日は開館)、4 月30 日、5 月7 日
入館料:一般1,000 円、大高生700 円、小中生500 円
原美術館メンバーは無料、学期中の土曜日は小中高生の入館無料/20 名以上の団体は1 人100円引

 

【本展と連動したプログラム】
展覧会 「紡がれた言葉―ソフィ カルとミランダ ジュライ/原美術館コレクション」
会期:2013 年3 月16 日(土)-6 月26 日(水)
会場:ハラ ミュージアム アーク 現代美術ギャラリー (群馬県渋川市金井2855-1)
http://www.art-it.asia/u/HaraMuseum/7MLvphyuOE5ifoD0248Q/

 

【関連情報】
『LOVE 展:アートにみる愛のかたち―シャガールから草間彌生、初音ミクまで』
(2013 年4 月26 日[金]―9 月1 日[日])に、ソフィ カルの作品「どうか元気で」(2007年)が出品。
http://www.mori.art.museum

 

 

 

April 8,2013

「最後に見たもの」2010 年、カラー写真 ©ADAGP, Paris 2013

「海を見る」2011 年、ヴィデオインスタレーション ©ADAGP, Paris 2013

「海を見る」2011 年、ヴィデオインスタレーション ©ADAGP, Paris 2013

インタビューに答えるソフィ・カル(中)