今津景 個展「Measuring Invisible Distance」レポート
text, photo : daiki tajiri

Swoon 2018, Oil on canvas, H216×W438cm, Unique ©︎Kei IMAZU Photo by Keizo KIOKU, Courtesy of YAMAMOTO GENDAI
6月9日より7月14日まで、天王洲にある山本現代にて、今津景による個展「Measuring Invisible Distance」が開催中だ。彼女が生み出す作品は油絵のはずが、CGのような質感を持ち、モチーフも古典的なテーマから現代カルチャーまで取り扱われていて、まさに現代美術でしか生み出せない作品と言えるだろう。
多摩美術大学大学院美術研究科修了後、国内外で数々の個展・グループ展に参加。東京ワンダーウォールに入選やVOCAにて佳作賞を受賞するなどのキャリアを持つ今津景。様々なジャンルの素材を持ち込みフォトショップで再構成、そこで完成されたイメージを油絵具を用いてキャンバスや板に落とし込む。
『Measuring Invisible Distance』(見えない距離をはかる)をテーマとし、『Swoon』(気絶)と題された約2×4メートルの大作を中心に、コンスタンティン・ブランクーシの彫刻「眠れるミューズ」などを描いた新作で構成される今展覧会も、彼女のスタイルの魅力が最大限に引き出されている。
彼女が生み出す作品群は一見エッジの効いたグラフィックのような雰囲気が見て取れるが、実際に鑑賞するとそのタッチはキュビズムや具象画またはシュルレアリスムにも通ずるものを感じることができる。
例えば今展覧会でメイン作品となる『Swoon』は、画面を構成するモチーフとして進化論の図やルーカス・クラーナハが描いたイヴ、母子像など、進化と母性をテーマにした要素が描かれている。また背景にはネイルアート(マニキュア)を施した女性の手が描かれ、奥行きを感じさせる「構造物の輪郭線」も見て取れる。そのほかにも、作品の要素として様々なイメージが混沌と行き交い、アーティストの世界観を形成する。
世界観を把握するにあたって、展示空間のキュレーション、展示方法にも注目したい。一面青く塗られた壁面や、統一されてない什器、コンセプチュアル・アートを思わせる照明など、展示されている作品と同じようにアーティストの描くカオスで魅惑的な世界の一部としてギャラリーの空間を構成している。
過去の美術史の中には、様々なスタイルや傾向、派閥が存在したが、メディアアートやインスタレーションをはじめとした現代美術が生まれたことにより、それらはひとつの素材や要素と化し、混ざり合うことによって新たな側面を持たせることが可能になった。またそれは、展示された場でのみ分かる作品が醸す空気にも同じように言える。展示会場に足を運び初めて体験する感覚が今展覧会には存在するのだ。ディスプレイや写真でみることと肉眼で実際にみることが全く異なる行為だということに改めて気づかされる。
自身のイマジネーションと生活の中で沸き起こった感情や私的なできごとがモチーフに託された、アーティストが行う作品制作という「見えない距離をはかる」ような行為。それは、作品を通してアーティストの意図を汲み取り、解釈する鑑賞者である我々にも同じことが言えるのではないかと実際に足を運び考えさせられた。
今津景 個展「Measuring Invisible Distance」
会期:2018年6月9日(土)- 7月14日(土)
会場:山本現代
東京都品川区東品川1-33-10 TERRADA Art Complex 3F
営業時間:11:00 – 18:00(火・水・木・土)11:00 – 20:00(金)日・月・祝は休廊
入館料:無料
HP:http://www.yamamotogendai.org/japanese/
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2018年6月9日(土)- 7月14日(土)
July 10,2018