Semi-Serif 萩原俊矢インタビュー
interview & text: Misaki Nagasaka

萩原俊矢
2007年より所属していたSemitransparent Design(通称:セミトラ)から独立し、2012年「Semi-Serif」を立ち上げた萩原俊矢。Semi-Serif以外にも、cookedやflapper3など幅広い活動をしている彼に話を聞いた。
自己紹介をお願いします。
Webデザイナーとして、プログラミングやデザインをしています。GRANDBASEでシェアオフィスをしていて、そこで運営しているデザインポータルサイト「CBCNET」で文章を書いたり、イベントの企画もしています。こういう活動を通して学んだことをたくさん自分のデータベースへ蓄積し、最終的には自分が考えるWebデザインに活かせればと思っています。なので、少しズレはありますが、Webデザイナーと名乗らせてもらっています。
最近、手掛けたものについて教えてください。
僕が所属していたセミトラも展示を行ったYCAM(山口情報芸術センター)で、5月から開催している展覧会「glitchGROUNDーメディアアートセンターから提案する、新しい学び場環境ー」の特設サイトやSumallyのスマートフォン向けのWebサイト、アートユニットNerholのサイトなどを作りました。Sumallyは、『この世界に存在するすべてのモノの”百科事典”を作ること』をコンセプトに掲げているWebサービスで、自分が持っているものや欲しいものをコレクションしていくサイトなのですが、人物をフォローするというより、みんなのモノ選びの“センス”をフォローしているような感覚の面白いサービスです。独立してから、より多くの方と一緒に面白いサービスを作る機会が増えて嬉しいです。
どのようなコンセプトで制作していますか。
Webデザインの視点で制作するときは、クライアントの要望からコンセプトや着地点が決まっていくため、そこへ向けて進む作業ができるのですが、自分が個人的に制作するものについては難しいですね。強いていうならば、きちんとインタラクティブなものになるよう心がけています。インタラクションって実は、どこにでもずっと前から存在していて、雑誌を読んで誰かに憧れたり、面白い映画を見て興奮して眠れなくなったりとか、そういうことも、相互作用と呼べる。プログラムで画像を動かすことだけがインタラクティブではないのかなと思います。だからコンピュータの有無に関わらず、他とは違うものを作りたいと思っています(笑)。
また、プログラムでインタラクティブな作品を作るときは、あまり“中心”を作らないように心がけています。どれがメインというわけではなくて、Webであればひとつのページ中でいろんな要素が自然に受け入れられるような構造が好きです。例えば、分解系レコードの「Elect-LO-nica Compilation」の特設サイトは、スクロールの動き方が変わっていますが、あれは東山さんのイラストがなければ生まれなかった動きです。5月6日に文学フリマで開催したcooked主催の「第二回京急蒲田処女小説文芸大賞」サイトでは、cookedメンバーの横田くんが作ったGIFアニメや、動きまわるテキストがあって、そして一見するとデザインは雑に見える印象がある。でも、ある程度は悩んで、こだわって作ってるんです(笑)。
萩原さんの活動を見ていると、Webデザイナーというよりかは、研究者に近い感覚を持っているように感じます。その点については、どう思われますか。
インターネットの世界にとても興味があり、可能性を感じています。今は、本当に多くの人がインターネットを日常的に使っていて、TwitterやFacebookなどで無限に発信していきます。次々と新しい情報が出現し、その速度以上に消費され消えていく。でも、誰も体系化せず振り返ることもしない。 こういう状況は絶対に面白いはずだと思いました。 なぜ、今、スクロールバーやGIFアニメが流行っていて、その表現方法が魅力的に感じるのかを皆で話し合ったりするのがすごく楽しい。皆で話し合うことが発展していって発足した「インターネット・リアリティ研究会」にも参加しています。メンバーは、作家のエキソニモ、思い出横丁情報芸術アカデミー、youpyさん、メディアアート・インターフェイス論専門の水野勝仁さん、CBCNETの栗田洋介さんなどそれぞれが違う分野で活動している人が集まっています。研究会の成果発表という形で、今年はじめに初台にあるICCにて「インターネットアート これから ーポスト・インターネットのリアリティ」展覧会の企画をやりました。この経験は、国内外のインターネットの“今”を考える貴重な機会になりました。
インスピレーションを受けているものはありますか。
僕のブログで、「インターネット時代の民藝品」シリーズのコラムを書くくらい、最近民藝品からすごくインスピレーションを受けています。
なぜ、民藝品に興味を持ったのですか。
民藝品というと、旅行先のお土産屋さんで売っている器などのことですが、誰の作品か気にもしたことがないですよね。でもどこか魅力的で地域色に溢れているんですよ。そういう作品は、リアルよりもインターネット上での方が存在しやすいと思っています。
ロシア人のネットアーティスト・Olia lia lina(オリア・リアリナ)は、大学教授や博士のサイトを分析して「Prof.Dr.Style」という論文を書いています。自分の教授のサイトを一度は見たことがある人はいると思いますが、彼らのサイトではなぜか教授の写真の横にプロフィールというシンプルな形式がデフォルト化されているんです。誰かが意図的に沿ったデザインをしている訳ではないけど、自然とそういう傾向がうまれて、なんとなく体系を築いている。この感じが民藝品とも近いなと感じました。ここの土地でとれた土を使うと同じ色の器が出来る、みたいな。
特定の誰かが作ったものではなく、あえていえば素人の作家が自分たちのためにつくった作品を見ると、そういうものが生まれる環境って、デザイナーひとりではなかなか作ることはできなくて、アノニマスなところで、みんなで盛り上がりながら作る感じがするんです。そういう意味では、民藝運動を起こした柳宗悦のような視点は、日本のインターネットでは当たり前に受け入れられるんじゃないかなって思います。
オランダ在住のネットアーティストRafael Rozendaalが始めたBYOBを2011年に東京でも開催しましたね。海外と日本の違いについて感じることはありますか。
BYOBは”Bring Your Own Beamer”の略で、アーティスト達が皆でプロジェクターを持ち寄って各自が自由に作品を投影しまくるイベントです。CBCNET主催で栗田さんと一緒に企画しましたが、「BYOBをやりたい」と言えば誰でも開催できて、フライヤーの代わりにGIFアニメーションを作って、BYOBのtumblrに投稿し、友達を集めてお酒を飲みながら持ち寄った作品を投影します。世界中で開催されていて、その都市によってさまざまな色が出るのがまた面白いです。海外の場合、仕事をしている日常風景や今日見たYouTubeをそのまま流す人がいる、かと思えば東京のように各自BYOBのやめに新しい作品を作って発表する人もいる。日本の場合は国民性もありますね。参加するからには、ちゃんとやらなきゃって僕も思ってしまいます。Rafaelもゲストとして来日してくれたのですが、今までのBYOBの中で一番楽しいと喜んでいました(笑)。
海外は日本と比べると、アート界では、インターネットでの表現が盛んですね。例えば、ヴェネツィアビエンナーレでは、各国のパビリオン以外にインターネットパビリオンがあります。現代アートの世界においてインターネットでの表現が許容されつつある。その流れは日本でもこれから始まるのかなと思います。ニコ動やPixivなど日本独自の盛り上がりもすごくて、彼らの作品や表現もすごく楽しそうだなぁと見ていてワクワクします。
今後の予定について教えてください。
インターネット・リアリティ研究会の活動としては、トークイベントのログを順次公開し、2012年末にオンラインでの展示を予定しています。また、CBCNETの栗田さんと一緒にはじめた「君と僕とインターネット」という番組を毎週水曜日22時からUstしています。これは、面白い活動をしている人たちをゲストに呼んで、ゆるく話しながらざっくりとした勉強会のような内容で今後もやっていきます。今後もWebサイトを作っていきますので、僕のブログ含め見てくださいね。
Semitransparent Design :
http://www.semitransparentdesign.com/
CBC-NET :
http://www.cbc-net.com/
glitchGROUND :
http://glitchground.ycam.jp/
Sumally :
http://sumally.com/
インターネットアートこれから :
http://www.ntticc.or.jp/Exhibition/2012/Internet_Reality/index_j.html
Prof. Dr.Style :
http://contemporary-home-computing.org/prof-dr-style/
BYOB :
http://www.byobworldwide.com/
June 4,2012

Sumally

文学フリマ”Fの30” 第二回京急蒲田処女小説文藝大賞

BK-K 010 by Bunkai-Kei Records Elect-LO-nica Compilation

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