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「Cinemalaya Philippine Independent Film festival」2014レポート

text : Asako Tsurusaki

Cinemalaya Philippine Independent Film festival2014 / A Decade of Connecting Dimensions公式カタログ表紙

 

 

 

8月2日より10日まで、マニラのフィリピン文化センター(CCP)とGreenbeltを含む5つの会場にて、フィリピンにおけるインディペンデントとして一番大きな規模の映画祭「The Cinemalaya Philippine Independent Film Festival 」(以降『シネマラヤ』で表記)2014が開催された。10周年を迎えた今年の本映画祭は「A Decade of Connecting Dimensions」と名付けられ、前売券売り切れ続出に対応した追加上映を連日設けるなど、大きな賑わいを見せていた。シネマラヤで上映されるのは、多数の応募の中からノミネートされた10名の映像作家をシネマラヤ基金がサポートして制作された「New Breed」部門、またアート性の強いベテラン映像作家で構成された「Directors Showcase」部門や短編部門など。他にも世界中の配給関係者と映像作家のコンファレンスなど多くの関連イベントも行われた。

 

コメディやメロドラマ、もしくはバイオレンス・アクションやスラム街をモチーフにしたものなどのイメージが強かったフィリピン映画界だが、2005年より国立フィリピン文化センター(CCP)が運営するシネマラヤ基金が若き映像作家を支援する活動が始まり、これまでに多くのアート的要素が強い作品が輩出されてきた。同映画祭は、インディーズ製作への支援を目的に掲げており、いまやフィリピンの若手映画作家が国内外で活躍する登竜門となっている。これまでに東京国際映画祭や米アカデミー賞も高く評価されたジュン・ロブレス・ラナや東京フィルメックスでも紹介されたハンナ・エスピアなど、この映画祭から出発して国際的に活躍するフィリピンの新しい才能が多く巣立ってきた。新しい活発な潮流を生み続けているこの街で出会うことが出来た、シネマラヤ2014より印象的だった4本をピックアップしてご紹介しよう。

 

 

 

 

 

[New Breed部門]

 

“BWAYA” 監督:Francis Pasion
2009年、フィリピン南部ミンダナオ島北東部カラガ地方に位置する南アグサン州の湿地帯で起こった、悲劇の実話を元にした作品。この地で永年水上生活を営む先住民族マノボ族は、動植物や自然と共生して生きてきた。しかしある日、12歳の少女Rowenaがこの地に棲息する巨大ワニに襲われ、その”共生”関係はいとも簡単に破綻してしまう…。悲劇に巻き込まれた少女の家族や村人達の哀しみ、また自然と人間の共生についての考察を、マノボ族に伝わるワニの神話に準えていく静謐で美しい作品。中でも印象的な少女の母親とワニが対峙するにらみ合いのラストシーンは圧巻。生き物として生きる母親同士の、本能がぶつかり合う迫力を見ることが出来た。本作はBest Film賞を始め、Best Original Music Score 賞、Best Cinematography賞を受賞した。

 

 

“Children’s Show” 監督:Derick Cabrido
本作は、監督が実際にドキュメンタリーとして取材した、子供同士のアンダーグラウンド・ファイティングショーを題材にしたフィクション。早くに母親を亡くし、祖母と借金持ちの父親と暮らす幼い兄弟、AlとJun。彼らはトライシクルの運転手として日銭を稼ぐほか、時折行われるファイティング・ショーに参加して生計を立てていた。貧しいながらも自分たちの秩序が保たれた世界で生きていた兄弟。しかしある日起こった事故を皮切りに、立て続けに悲劇が二人を追いつめていく…。予告編から受ける印象よりフェルナンド・メイレレスの『シティ・オブ・ゴッド』の様なスピーディーなキッズ・ギャングものかと思いきや、兄弟を中心とする人間関係の温かさやユーモアがしっかりと根付いており、ファミリー・ドラマとして楽しめる1本。また不謹慎ながら美しいとさえ思ってしまった、ファイティングショーで照らされる少年達の汗をまとった肉体美は、やはりフィリピンでしか描けないものだと思えた。本作はBest Sound賞、Best Editing賞、 Best Performance of a Supporting Actor賞(弟のAl役、MIGGS CUADERNO)を受賞した。

 

[New Breed Short Feature]

 

“Asan Si Lolo Me? / Where’s Grandpa Me?” 監督:Sari Estrada
幼い息子に祖父の死をどうやって伝えようかと考えあぐねていた主人公。そんな時、一頭のヤギと出会う。そして彼女は、このヤギが祖父の生まれ変わりであると伝えることにしたのだが…。少し強引だが家族想いの典型的なフィリピン女性の母親、少し抜けているがボケ担当の泣き虫な父親、大人びているが素直で無邪気な息子。祖父の身代わりに仕立て上げられたヤギを巡って、彼らの温かい家族ドラマが繰り広げられる。監督は大学の卒業制作としてこの作品を撮影した若き女流作家、Sari Estrada。「幼い頃からディズニー映画のプリンセスになりきり、コスチュームを着て遊んでいた」という彼女が描く、日常とファンタジーや神様が共存することが許された世界。そしてそれを受け入れるゆるやかで優しい人間達がもたらす空気は、同じ南国の沖縄映画と似た感覚を覚える。ユーモラスだが抑揚を押さえた見事なストーリーテリングで、本作は短編部門にてBest Film賞を受賞した。

 

 

“Ina-Tay / Mother – Father” 監督:Chloe Anne A. Veloso
フィリピンのセブ島を中心に活動している、Chloe Velosoによるコメディ・ゲイムービー。ゲイ仲間と気ままに楽しく暮らしている主人公Elvisの元に、「あなたとの子だ」と一人の赤ん坊(♂)を連れた女性が現れる。Elvisがパーティで泥酔した一夜に出来た子供だと彼女は言いはり、赤ん坊を置いて去って行く母親。最初は戸惑うElvisだが、その可愛らしさに「Ina(母親)」と「Tay(父親)」の両方として、子供を育てていく決心をする。そして数年後、可愛い年頃に成長した娘は、初めての恋を経験することになるのだが…。Chloe監督作品の常連アクトレスBadidi Labraを主演に迎え、本編全てをビサヤ語で撮影した最初の作品。最初はそのベタなドタバタ喜劇とオネエ演技に圧倒されるが、次第に癖になってゆくその中毒性は、初めて日本で『ムトゥ 踊るマハラジャ』を観た時の様な衝撃と似ているかもしれない。残念ながら本映画祭での受賞は逃したが、次作は長編を期待したい。

 

 

高い国際的評価を受けているアーティストのキドラット・タヒミック(近年妻有トリエンナーレにも参加)や、先日ロカルノ国際映画祭でグランプリを受賞したラヴ・ディアス、YIDFF2013やロッテルダム国際映画祭でも話題になったジェット・ライコなど、グローバルな認知度を得てきているフィリピン映画界。これからもしばらく目を離すことが出来なそうだ。

 

 

 

http://www.cinemalaya.org

 

 

 

 

August 25,2014

Bwaya(監督:Francis Xavier Pasion)

Children's Show(監督:Roderick Cabrido)

Asan Si Lolo Me?(監督:Sari Estrada)

Ina-Tay(監督:Chloe Anne A. Veloso)

CCP会場風景