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映画 『家族の灯り』 レビュー

text : Asako Tsurusaki

 

 

 

闇社会に飛び出した若者ジョアンと、そんな放蕩息子の帰りをじっと待つ父ジェボ、母ドロテイア、そしてジョアンの妻ソフィア。3人の元にフラリと戻ったジョアンの存在はしばし一家に混乱と共に喜びを与えるが、貧困の現状を打破するために反社会的活動をも厭わないジョアンと、貧しくも真面目に生きることを道徳とする三人の溝はあまりにも大きかった。ジョアンは自分の信条を貫くために、妻の制止も聞かず父が仕事で預かった金を持って逃げる。そしてその事実を知った父は、家族の平安を護るために、ある決断をする…。

 

映画の最長老、マノエル・ド・オリヴェイラ監督(1908-)による最新作『家族の灯り』がいよいよ日本で公開を迎えた。作品を彩るのは、ジャンヌ・モローとクラウディア・カルディナーレの豪華共演や、オリヴェイラ・ファミリーのレオノール・シルヴェイラ(『アブラハム峡谷』『クレーヴの奥方』)やルイス・ミゲル・シントラ『永遠の語らい』、そしてオリヴェイラの孫であり『ポルトガル、ここに誕生す〜ギマランイス歴史地区 -征服者、征服さる』で主演を務めたリカルド・トレバ。本作品公開時点で105歳を迎えるオリヴェイラ監督は、現役最高齢の位置に矍鑠と鎮座しつつもその映像美は年々艶かしさを増し、90歳を超えてからも毎年1本制作し続けている。そのひたむきな姿は当然ながら「世界で最も偉大な映画作家」として多くの映画ファンに敬愛され、2008年カンヌ国際映画祭では生涯功労賞が授与されている。

 

監督が描く人間達は、恋愛・老い・悪魔のささやきなど様々な試練に翻弄されつつ、その運命を自然に受け入れる清々しい姿が印象的だ。そこにはオリヴェイラ監督のキリスト教的運命論が根付いている。「運命の力は大きい。泉は大河になり、大河は個性をもつが、それが海に注ぐときその個性は完全に失われます。それは私が絶対と呼ぶもので、つまり大河は絶対に流れ込むのです。この絶対は蒸発して雨に変わり、雨は泉を生み出す。これは一つのサイクルです」。『家路』(2001)でミシェル・ピコリ演じる老名優が受け入れる家族の喪失と老い、『世界の始まりへの旅』(1997)でマルチェロ・マストロヤンニが演じる老映画監督が見つめる家族の業と絆。全ての試練はやがて行き着く巨大なサイクルの一部でしかないという、全てを見据えた神の視点からので描かれてきた。

 

本作は、長らく行方をくらましていた主人公の息子であるジョアンが波止場でじっと海を見つめている横顔から始まる。海の向こうに広がる自由を見るジョアン。その横顔は、決して犯罪者の顔ではなく、自らの自由を信じる若者の希望に溢れている。それと対比するかの様に、カメラはその後時間が止まった様な室内でじっと時を過ごす、残された家族達にパンを移す。そこでは、必要の無い計算をして時間をつぶす生真面目な会計係の父、溺愛する息子の帰りをひたすら待ち嘆く母、そしてその淀んだ空気の中で夫を待つけなげな妻の三人の姿が見られる。”自由”を象徴する海と、重い”停滞”の時が流れる室内。この二つの対立が生む悲劇は、監督の故郷であるポルトガルという国の矛盾した二つの性格の葛藤を表している。

 

大航海時代真っただ中の16世紀、日本にはじめてやってきた西欧人がポルトガル人だった様に、かつてポルトガルは世界的に植民地や貿易国を広げる、いわば旅する国民であった。しかしナポレオンの侵略やエスタド・ノヴォと呼ばれる長期独裁政権、またカーネーション革命やEUなどの歴史的奔流に飲まれ、現在まで続く経済危機が始まっている。本映画の原作となる戯曲『ジェボと影』の作者ラウル・ブランダン(1867-1930)が生きた独裁政権が始まる少し前の時代を舞台にしているが、ポルトガルの持つ旅する国民という”自由”な気質の顔と、経済危機による停滞の顔を、それぞれジョアンと室内の三人との葛藤で演じさせて、ここに金の価値に対する混乱と「道徳とは何か?」という問題を提示している。

 

「ジェボは嘘をつくことだけが家族を救う手段であると考え、それを実戦してしまう。犠牲になるために真実を避けるのです。息子は秩序に従わず名誉や義務といった考えにも従わないゆえに父にも逆らうのです。彼は自分を革命家だと思っています。現状に反抗し、金によって成り立つ世界の構造に反抗している。そこに金があるにも関わらず家族が力を失い、みんなが苦しむのを見て反抗するのです。貧乏が貧しい人々の義務なのではなく、貧困は運命で、それに直面したとき身を守ることは困難なのです」。

 

貧困という一つの大きな運命にさしあたった時、様々な正義や価値観が道徳がぶつかり合う。それがどの河に流れどこに降り注ぐことになるのかは神のみぞ知るところだが、昏迷した現代を見据える一つの指南としてこの美しい映像作品を観てみても面白いのかもしれない。

 

 

 

 

『家族の灯り』
配給:アルシネテラン
2月15日(土)より岩波ホールほか、全国順次公開

監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ
原作:ラウル・ブランダン「ジェボと影」
出演:マイケル・ロンズデール クラウディア・カルディナーレ ジャンヌ・モロー
レオノール・シルヴェイラ リカルド・トレパ ルイス・ミゲル・シントラ

2012年/ポルトガル・フランス映画/フランス語/91分/カラー
原題:GEBO ET L’OMBRE 英題:GEBO AND THE SHADOW

© 2012 – O SOM E A FURIA / MACT PRODUCTIONS

 

 

 

 

February 15,2014