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映画 『アイム・ソー・エキサイテッド!』 レビュー

text : Asako Tsurusaki

 

 

2011年に発表された究極の問題作『私が、生きる肌』より3年の沈黙を破り、スペインの巨匠ペドロ・アルモドバル監督が新作を引っさげて帰ってきた。スペインの巨匠ルイス・ブニュエルがメキシコでコメディ映画を生み出していた時代に生まれ、カルロス・サウラに代表される「ニュー・スパニッシュ・シネマ」による乱気流が起こったスペイン映画史の最中で思春期時代を過ごしたアルモドバル監督。ここ数年アルモドバル色として定着してきたシリアスで重厚なテイストとは打って変わり、今作は監督の原点回帰とも言うべきエロス・コメディというのだから、観る前から期待度も高まる。

 

また今作も豪華な”アルモドバル”ファミリーによる出演陣が楽しむことが出来る。カメオ出演として、『アタメ』のアントニオ・バンデラスと『ボルベール』のペネロペ・クルスが空港職員バカップルとして、また『オール・アバウト・マイ・マザー』で哀しみにくれる母を演じたセシリア・ロスが伝説のSM女優を、『トーク・トゥー・ハー』で献身的な介護士を演じたハマエル・カマラがオネエCAの一人を演じるなど遊び心が感じられるキャスティングだ。そしてコリオグラファーにはダフト・パンクの『アラウンド・ザ・ワールド』MVのブランカ・リー、CAの衣装デザインに新進気鋭のDavidelfin、エアラインデザインにはハローキティとのコラボでも話題になったハビエル・マリスカルを迎え、アルモドバル色である混沌とした人間模様をワンシチュエーション・コメディとして緻密に美しく織り上げている。

 

舞台は、マドリードからメキシコ・シティに向かう空の上のペニンシュラ航空(飛行機デザインや機内インテリア、乗務員のユニフォームなど、徹底したコーポレートデザインにのっとった架空の航空会社)。そこに乗り合わせたのは、人には言えぬ怪しい事情を抱えた者ばかり。国家権力者の秘密を握る元SM女王、素性を隠したアサシン、未来を予言する処女のアラフォー、酩酊している運び屋の新婚カップル、不祥事で高飛びを目論む銀行頭取、女性関係に疲れた元人気俳優、そしてそんな乗客達を導くダンス好きなオネエ系CA三人組と、そのうちの一人と三角関係にある機長達。そこへ突如深刻な飛行機トラブルが発生し、死を意識した彼らは徐々にお互いの秘密を告白していく…。

 

今作『アイム・ソー・エキサイテッド』では、緊急着陸と言う死の恐怖と比例して、乗客達のエロスに対する自由奔放ぶりが加速していく。人間の薄皮を一枚はがされた彼らの素顔は、死に怯えるどころか監督の故郷ラマンチャの空模様の様にカラッとしている。まるで不条理なこの状況下を、再生へと導く”見えざる力”としているかのごとく受け入れているのだ。

 

「目的地が定まらず空中旋回している飛行機は、経済危機に喘ぐ現在のスペインのようだ。雲の中でもがく乗客が置かれている状況は非現実的で、スペインの国民を暗喩している。私たちはどこへ向かうのかわからずぐるぐる回り続け、リスクと危険が伴う緊急着陸を余儀なくされていく…。しかも、誰が舵取りをするのかわからぬままに」。社会風刺の意味を込めて、アルモドバルはこうコメントしている。

 

アルモドバル作品の最大の魅力は、作品全体に漂う死とエロスの匂いと、本能を抑えることをしない素直でプリミティブな人間像。初期のキッチュで下劣なコメディ『神経衰弱ぎりぎりの女たち』に登場する自分勝手な恋人達やテロリスト、中期のカラフルでスタイリッシュな愛の世界『キカ』での何人もと性的関係を持つことになる主人公、近年の女性讃歌作品と謳われる『ボルベール』での娘と母に対する愛を貫く女主人…。これら30数年の間アルモドバルによって描かれてきた人間達は、殺人、レイプ、誘拐、監禁、事故死など死やセックスが隣り合った”秘密”を抱えている。そしてそんな逃れられない運命にジタバタしつつ、極限状態で真っ裸の状態を曝された時に見える人間の可笑し味、美しさをこの作品で楽しんで頂けることだろう。

 

 

 

 

 

 

『アイム・ソー・エキサイテッド!』
2014年1月25日(土)新宿ピカデリー他公開
配給:ショウゲート
(C)EL DESEO D.A.S.L.U M-39978-2012

 

監督・脚本:ペドロ・アルモドバル
出演:カルロス・アレセス、ハビエル・カマラ、ラウル・アレバロ、ロラ・ドゥエニャス、セシリア・ロス、ブランカ・スアレス
2013年/5.1ch/ビスタ/スペイン/90分
公式HP:excited-movie.jp 

 

 

 

 

 

 

January 22,2014