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フランソワ・オゾン監督「17歳」レビュー

text : UMMMI.

 

なにか秘密がなければそろそろやってゆけないかも、だって私はもう子供じゃないし毎日は退屈だし周りはバカばかりだし、という17歳のときのありがちで傲慢な、悪い秘密を欲する奇妙な感覚を私は鮮明に覚えている。例えばそれは同じ学校のアホそうにしか見えない男の子とクラスメートが付き合っているなか、自分だけ年上の、学校の外の世界の人と情事をしているといったこれといって特別でもないしかし意味もなくほんのりと優越感を覚えることのできる秘密の種類でもあり。ただ退屈な学校生活と冴えない未来のことを思い浮かべると、自分の身の寄りどころ、アンニュイなため息をついたときにそのため息を欲してくれる人、性的な快感を与えてくれる(もちろんそれだけではない。いままで着ていたTシャツとジーンズを脱がせてくれる代わりに、シャツとぴたりとしたスカート、赤い口紅を塗り新しく生まれ変わった自分を見せることのできる相手のことでもある)ような人を誰しも思春期の女の子は内心こっそりと必要としているのかもしれない。大人になり様々な人と出会うきっかけがあるにつれて閉ざされた世界の外の人という区分けがあったことなんてつい忘れてしまいがちだが、やっと自分が社会に、例えそれが性的な需要であったとしても、必要とされる思春期の喜びというのはごく純粋な欲求だとも言えるだろう。

 

 

主人公のイザベルは売春という秘密を手に入れて淡々と繰り返すが、フランソワ・オゾン監督が言っているようにその秘密は時代など関係なくあらゆるところに転がっているのかもしれない。些細なことがきっかけでドラッグに走っていたかもしれないし拒食症になっていたかもしれないし、或いは盗みをしていたかもしれない。17歳の女の子は心のどこかで秘密を熱望している、というのは自分が数年前に17歳の女の子だったことがあるから痛々しいほど身に染みる。それはまるで、かつて処女だった頃の自分を思い出さずしてこの映画を観ることができないような、熱烈な立ち昇るどこか冷めた熱気とともに。

 

 

「17歳ともなれば、まじめ一筋ではいられない。ある晩、ビールもレモネードも、まばゆいシャンデリアにさんざめくカフェなんかも糞喰らえさ!──緑の菩提樹の下の遊歩道を歩こう。」 劇中でも引用されるランボーの詩は、17歳をこう歌った。真面目は悪ではないしもしかしたら不真面目だって悪ではない(かもしれない)という生きる道を、恐るべき子供アンファンテリブルよろしく私たち17歳はたぶん、シャクシャクと何だってやってのけることができる。それはこの映画内で売春を繰り返してしまうイザベルによって緩やかに加速してゆく後半でふと口にされる、私は汚れている、というもう取り返しのつかない、しかしどうしようもない現実を目の前にして。自分の過去をすべて人に見せることのできる人間なんかとは話すらしたくないわ、人に言えない過去を持った女の子のほうが素敵でしょ、とまで強気にはなれるわけではないがしかし周囲にばれて自身でも多少反省の色を見せてもなお売春を続けてしまおうとするこの美しい17歳の少女が画面の中でうっとり静かに動きまわる姿を見ていると、つい取り返しのつかない秘密について想いをはせずにはいられない。

 

 

いきなり冒頭から未発達な色気を漂わせる少女を覗き見しているようなカットではじまるこの映画、はあじんわりなんとまあうつくしい、という賞讃のため息を鑑賞者に漏らさせないかのようにもの凄いスピードで物語が展開してゆく。季節きざみになっているこの映画のミソは、17歳の美しい女を監視する側の視点から、気が付いたら揺れ動く17歳の女の視点へと持ってかれるその移行なのかもしれない。そして最後に登場するフランソワ・オゾン監督の永遠のミューズ、シャーロット・ランプリングことアリス役への隠された移行には完全にどきりとしてしまう。どっしりと構えつつも「もしかしたら自分が生きていたかもしれないもうひとつの人生」を追憶するアリスのハッとするような演技に、ともすると自分を重ね合わせることが容易な鑑賞者も少なくはないだろう。

 

 

それはきっと私たちにだって、小さなトリガーさえ外れてしまえばいつだって17歳に戻れることをこの映画は示唆していると言えるのかもしれない。意味もなく絶望的に寂しくてパニックになりそうな夜(そしてそうゆう夜はたいてい意味もなく、という名目のもと大きな意味が乗っかっていることが多いことも経験上そろそろ知っている。自分は誰からも必要とされていないのではないかと思い込んでしまうとかそういったことなどが)カチリと音を立て、自分の感情と振り切れる幅がそろったとき、きっと良くも悪くも自分の精神的17歳はそこにあるのだ。そしてその時に私たちが手にしているのはまとわりついているつまらない記憶や環境ではなく、無鉄砲な行為だけだとでも言うように。

 

 

 

「17歳」

公開日:2014年2月
脚本・監督:フランソワ・オゾン
出演:マリーヌ・ヴァクト、ジェラルディン・ペラス、フレデリック・ピエロ、シャーロット・ランプリング
提供:キノフィルムズ、KADOKAWA
配給:キノフィルムズ
宣伝協力:Lem
後援:在日フランス大使館/アンスティチュフランセ
(C)MANDARIN CINEMA – MARS FILMS –FRANCE 2. CINEMA – FOZ
2月15日(土)新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座他全国ロードショー

公式サイト:http://www.17-movie.jp/

 

 

 

 

 

December 24,2013