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映画「オン・ザ・ロード」レビュー

text : UMMMI

 

 

 

 

 

途方に暮れてしまう、というのは恐らく誰にだってあることだ。とりわけ思春期の、将来に悩んでいる時期をいかにして過ごすかという問題は、多くの人が一度は立ちふさがることであろう。いやそれとも、ただ生きているという日々の生活、例えば働いたり夜遊びをしたり酒を飲んだり、或いは恋をしたりだとかそういったもので両手が塞がるほど忙しいのだろうか。またはただそれだけでは飽き足らず、熱烈に旅に出たいと思ったりするのだろうか。

 

ジャック・ケルアックが1957年に発表した『路上』は、アメリカのビート・ジェネレーションを代表する小説であり、その後のカウンターカルチャーの時代には“ヒッピーの教典”と呼ばれるほどの影響力を及ぼした名作である。小説はケルアック自身が全米各地とメキシコを放浪した実体験をベースに、わずか3週間で書き上げたという伝説もあるほどの即興ジャズのように流れる物語だ。そしてついに今回、『路上』の映画化実現を長年夢見てきたフランシスフォード・コッポラ監督総指揮、そして『モーターサイクル・ダイアリーズ』で知られるブラジル人のウォルター・サレス監督によって、この不朽の名作が映画化された。

 

冒頭の黒い画面とぼそぼそした独白、そして一転して広大なアメリカの乾いた大地。行き当たりばったりの旅を通して自由を追い求めて生きる若者の姿がいっぱいに映し出されたこの映画には、始まりから終わりまで一貫してざらざらに乾いた喉のような、強い渇望が画面を覆いつくしている。恋愛と友情、セックスとドラッグ、酒、ジャズ、これら一過性の享楽に身を寄せる青春模様は、生きる喜びを描くと同時に人間の孤独そして将来を思い悩む若者の心をあぶり出す。

 

この映画の冗漫かつ流動的で様々なところに意識が点在しているかのような構成は、観ているだけで登場人物と同じ時間軸を過ごしている気分になると同時に、自らの人生を改めて考えさせられる心地になる。破滅的、とでもいうような日々は現代にあるのだろうかと考えた時、恐らく多くの人はないと言うのかもしれない。ビート・ジェネレーション。ドラッグや酒やセックスに始まる享楽と人間模様が延々と続いていく映画に閉じ込められた夢、または悪夢のような空間は、あまりにも儚くてもの悲しく、そして輝いている。
しかしこの輝きは、享楽に身を沈める輝きではなく、より単純な、まだ何者でもない若者たちの見せる一縷の希望の輝きのような部分を指しているのかもしれない。自らが希望の塊であると認識している、文学や芸術に詳しい若者の集まりは、希望の塊でいる純粋な喜びと、自身がたんなる希望の塊でいることを認めることが出来ないえも言われぬ焦燥感に溢れている。

 

監督のウォルター・サレスは、インタビューで「路上/オン・ザ・ロード」を初めて読んだ時の感想をこう語っている。「私はこの小説をブラジルで読んだが、当時は軍事政権下のつらい時代だった。報道も、出版社も、音楽や映画も検閲の影響を受けていた。(中略)私はすぐに登場人物たちの自由さや、ジャズを吹き込まれたような語り口、セックスやドラッグが世界への理解を広げる道具と考えられているような描写に魅了された。それは、まさに私たちの暮らしぶりとは正反対のものだった。」これは、ともすると現代の日本とも通ずる部分があるのかもしれない。日本では風営法によって近年、踊ることが禁止されつつあることが話題となっている。大昔から長らく続けられてきた人間の根本的な欲求に基づく行動を規制するというのは、異常な状況であると言っても過言ではないだろう。
そんな日本で生きる私たちにとって、劇中で観られる主人公のモデルとなったニール・キャサディことディーン・モリアーティが愉快に踊るシーンはどう映るのだろうか。ジャズの音に乗って踏まれる、まるで世界がくるくると回っているかのような、それは恋の始まりのような高揚感溢れるカメラワークと一緒に展開されるシーンを観てウォルター・サレス監督と同じようなことを思うのだろうか。

 

脈絡もなく延々と続くこの旅には、熱烈な匂いが画面から漂ってくるようだ。その匂いはどこかの様々な食べ物が並ぶ屋台村のようでもあり、恋愛の困難さと喜びのむせ返るように湿った匂いでもあり、そして胸いっぱいに吸い込んだ砂埃のような匂いでもある。混沌とした様々な匂いにそそのかされて時間の長さをまったく感じさせないこの映画は、どこかケルアックの書いた即興的かつ留まることのしらない文章表現と似ているようでもある。

 

最後に、ケルアック「路上/オン・ザ・ロード」の文中を引用して終わりにしようと思う。「僕があまりにいろんなことを好み、しまいには自分が落ちてしまうまで、一つの流星から他の流星へと走り回って、すべてのものを混乱させてしまうからなのだ。」(『路上』ジャック・ケルアック, 河出書房新社)この映画は混沌とともに、わからないことがわからないまま疾走している人間の凝縮図のような映画である。それはもしかすると、まさにいまの季節のような、夏の終わりのような匂いとも通ずるのかもしれない。

 

 

 

 

 

『オン・ザ・ロード』

CAST:
サム・ライリー、ギャレット・ヘドランド、クリステン・スチュワート、エイミー・アダムス、トム・スターリッジ、キルスティン・ダンスト、ヴィゴ・モーテンセン 他

STAFF
製作総指揮:フランシス・フォード・コッポラ(『ゴッドファーザー』『地獄の黙示録』)
音楽:グスターボ・サンタオラヤ(『ブロークバック・マウンテン』『バベル』)
配給:ブロードメディア・スタジオ
※R-15 (C)Gregory Smith
8月30日(金)TOHOシネマズ シャンテ他全国順次公開

http://www.ontheroad-movie.jp

 

 

 

August 30,2013