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渋谷慶一郎と初音ミクによるボーカロイド・オペラ「THE END」レポート

Text : Misaki Nagasaka

 

ill, dir. by YKBX (C)Crypton Future Media, INC. www.piapro.net <http://www.piapro.net>
(C)LOUIS VUITTON

撮影:新津保建秀
Bunkamuraオーチャードホール

 

 

 

 

2007年にクリプトン・フューチャー・メディアによって作り出された初音ミク。彼女の3Dホログラムライブや冨田勲氏による「イーハトーヴ交響曲」など、その活動は多岐に渡る。

そんな中、新たな事件が起きた。これは単なる初音ミクの文脈の一つとして、語るには軽卒な出来事かもしれない。ルネサンス後期の16世紀末に起きたフィレンツェの歴史さえも覆すような驚愕的な事実が目の前に存在するのだから。

2013年5月23日・24日の二日間、渋谷Bunkamura オーチャードホールにて音楽家・渋谷慶一郎と初音ミクによるボーカロイド・オペラ「THE END」の東京公演がおこなわれた。2012年12月、山口情報芸術センター(YCAM)での公演後、さらなるアップデートがされ、待ちに待った東京公演に観客の誰もが興奮していた。

THE ENDは、人間の歌手もオーケストラも登場しないコンピュータ制御された電子音響とマルチスクリーン立体映像によって構成される世界初のボーカロイド・オペラプロジェクトである。

映像ディレクションはYKBXが担当、脚本は演出家・劇作家・小説家の岡田利規、舞台美術には建築家の重松象平を迎え、サラウンド・サウンドプログラムは、サウンドアーティストのevala、ボーカロイド・プログラミングはピノキオPという豪華な布陣によって作られた。

8トンというアリーナツアー並みの音響機材。スピーカー約50台に低音専用のサブウーハーが24台。それに加えて映像機材4トン、照明機材3トンというどこの会場で行われるのかというくらいスケールの大きさから本公演の本気度が伺える。最初から最後まで大音量で会場の揺れを感じた。耳の心配はないと告知されていたものの半信半疑だったが、公演後まったく耳が痛くなく、音響スタッフの極めて高いテクニカル・スキルを感じた。

そして、ルイ・ヴィトンのアーティスティック・ディレクターのマーク・ジェイコブスと彼のスタジオチームが、2013年春夏コレクションを元に衣装提供したことも大きな話題を読んだ。

このオペラはTHE ENDという通り、我々の誰もが経験する「生と死」についての「終わり」をテーマにしている。初音ミク、初音ミクの分身、そしてマウスのような動物の登場する物語によって、それを観客へと問いかけた。

どの曲を聴いても3分台でおさまっている似たり寄ったりの個性がない現在の音楽に対して、作りたいものを作るためには尺は長くても良いし、それにはオペラの形式は有効だったと渋谷慶一郎は語っている(「THE END」カタログより)。そして従来のオペラの主要素とされているアリア、レチタティーボはあえて厳守され、「死」をテーマにした悲劇的ストーリーで展開されるということも従来のオペラの約束事をあえてトレースしている。

初音ミクは死なない存在、生きていない存在だと思っている人が大半だろう。しかし、その初音ミクが、分身の出現によって「生と死」を考えるようになった。わたしはなぜここにいるのか。わたしが死ぬというのはどういうことなのか。そもそも、死とはどういう状態になることを示しているのだろうか、と。初音ミクが分身に伝えた「会いたかった」の意味。死臭がまとわりつき精神も蝕まれた存在となってしまった分身。

私たちは自分の死を知らない。誰もが「生と死」があるにも関わらず、自己の意識としては両方とも存在しない。(生まれた瞬間「自分が生まれた」という意識を持った新生児はいないだろう)そして、生は誰もが必然的な出来事で、死は人に言われるまであまり考えない出来事である。初音ミクも分身に言われるまで、自らにも死が訪れることを考えたことがなかった。このオペラは、人間でないボーカロイドでさえ、死に怯え、死する可能性があることを表現することで、我々には確実に訪れる死について語り、脅かしている。

少なくとも自分以外の誰かの死を迎えた人間は、人がいつかは死ぬことを知っている。ゆえに自分もいつか意識がない物体になることを知る、他者がいてこそ、死の存在が認められるのだ。自分一人では、死すら知ることが出来ない。

ボーカロイドは人間ではない。バーチャルだ。しかし、私たちは彼女に対して感情移入し、現実に存在する人物であるかのように接する。ファンになる。近年よく言われているバーチャルとリアルの違いは何だろうか。リアルがバーチャルの存在に興奮し、ニコニコ動画でオリジナル曲を流し、新たな初音ミクの姿を量産している。もし、彼女がバーチャルな世界から姿を消したら、人間たちは彼女を追悼するだろう。実在しないバーチャルのキャラクターから投げかけられたテーマ「生と死」を解釈することはとても難しい。

THE ENDは海外でも関心が高く、2013年11月13日・15日にフランス・パリのシャトレ座にて公演されることが決まった。シャトレ座は1862年に建立されオペラハウスとして伝統のある会場である。この公演はフランス・パリでも賞賛されるだろう。そして、さらに多くの人がこのテーマについて考えることになるだろう。

 

 

『THE END』

音楽:渋谷慶一郎
台本:岡田利規、渋谷慶一郎
共同演出:渋谷慶一郎、YKBX、岡田利規
出演:渋谷慶一郎、初音ミク
舞台美術:重松象平
映像:YKBX
音響プログラム:evala
音響:金森祥之
ボーカロイド・プログラム:ピノキオP
テクニカル・サポート:筒井真佐人
プロデューサー:東市篤憲(A4A)

http://theend-official.com/

東京公演
2013年5月23日(木)19:00~
2013年5月24日(金)15:00~ / 19:00~
会場:東京都 渋谷 Bunkamuraオーチャードホール
料金:プラチナ席(プログラム付)10,000円 S席7,500円 A席5,000円 B席3,000円
パリ公演
2013年11月13日(水)、11月15日(金)
会場:フランス パリ シャトレ座

http://chatelet-theatre.com/2013-2014/the-end-en

 

 

 

July 11,2013