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松下まり子個展「Silent Resistance to Oblivion」レポート

text : daiki tajiri

抱擁に至るまで Until the Hug © Mariko Matsushita 2018 Pastel on paper Courtesy of KEN NAKAHASHI

 

「Silent Resistance to Oblivion」

タイトルの「忘却への静かな抵抗」は美術評論家の笠原美智子によるフェリックス・ゴンザレス=トレスについての論考文から引用された言葉だ。大都会の中にひっそりと佇む空間を埋めるアーティスト松下まり子の作品群は、密やかだが確実に強いメッセージを語りかけている。

 

8月24 日(金)より9月21 日(金)まで、東京・新宿にあるギャラリーKEN  NAKAHASHI にてアーティスト松下まり子による個展「Silent Resistance to Oblivion」が開催されている。

 

これまで松下は、ドローイング、映像、詩、パフォーマンス、ファッションブランドとのコラボレーションなど様々な媒体を使用しコンスタントに自身の世界を表現してきた。ギャラリーKEN NAKAHASHIでも4度目となる今展覧会では、ペンやパステルで描かれた、従来とは異なる新鮮な作品と出会える。

 

今まで発表された作品同様、今展覧会で展示されている作品にも、歪められた人物像、臓器や血、植物や昆虫を想起するものが描かれている。野蛮でグロテスク。そんなイメージも彷彿とするが、鑑賞を続けると、まるで闇の中の光のような、希望にも似た何かが見てとれる。

 

彼女曰く、自身の直感に従って生まれた作品群の背景には、彼女の人生で出会った様々なイメージが眠っているという。生き物としての本能や、興味を持ったものや触発されたものまで、彼女の頭の中で築かれたものが、まるで彼女自身の化身のようにそのまま表現されているのが分かる。

 

また、作品を生み出すにあたり、彼女は自分の意識の底へとダイブし、トランス状態の中で掴み取るように制作を行うと語る。これは運動や性交時に感じる肉体的で原初的なエネルギーを作品に落とし込む、プリミティブな方法と推測される。しかし、これは単純でありながらとりわけ困難な行程だ。

 

「普通」を要求され、アイデンティティの意味まで歪められ、それに疑問を持つことなく従い、自分の信じるものが見え辛い現代において、このように自分自身に深く没入し解釈するという行為自体に目を瞑る人も少なくない。

 

表現というものは、一般的にいうリアルから回避または拒否することができると筆者は思う。自身に入り込みイマジネーションを膨らませ、表現をすることによって、残酷なこの世界から希望を見出す。その抵抗は静かでありながら、美しくパワフルで、鑑賞する我々にもそのメッセージは浸蝕してくる。自分はなぜ自分なのか。忘れてはいけないこの疑問を、展示空間に足を踏み入れることにより体感できる。

 

 

 

 

■ 展覧会インフォメーション
松下まり子「Silent Resistance to Oblivion」
会期:2018 年8 月24 日(金)- 9 月21 日(金)
会場:KEN NAKAHASHI
東京都新宿区新宿3-1-32新宿ビル2号館5階
営業時間:11:00 – 21:00(日・月曜日定休)
入館料:無料
HP:https://kennakahashi.net/ja/exhibitions/silent-resistance-to-oblivion

 

 

 

 

 

September 18,2018

展示風景 Photo: Jörgen Axelvall

展示風景 Photo: Jörgen Axelvall