QUOTATION

映画「ラジオ・コバニ」 レビュー

text : fumiko asada

 

 

人間はなんと愚かなのだろうか。戦争という理不尽で悲惨な状況の中、ひとりの若い女性がラジオ番組「おはよう コバニ」を立ち上げた。ドユメンタリー映画ならではのリアルな現実がそこにはある。

 

 

STORY

2014年シリアにあるクルド人の街コバニは、ISによって壊滅状態に陥っていた。まだ戦火の残る中、トルコに避難していた女子大生のディロバン・キコは正確な情報を求めて街に戻り、ラジオ局を立ち上げる。崩壊した街の中で、友人たちが持ち寄ったマイク、パソコン、ミキサーでなんとかスタジオを作り、前線で戦う兵士たちや自分と同じように大切な人の帰りを待っているコバニの街の人々に向けて「おはよう コバニ」の放送をはじめるのだった…。

 

 

REVIEW

監督のラベー・ドスキーはイラク出身のクルド人。別の撮影のためにトルコからシリアのコバニへ潜入する際、タクシーの中で偶然聞こえてきたラジオ番組「おはようコバニ」に心を惹かれた。翌日、さっそくディロバン・キコに会いに行ったドスキー監督は、一瞬にして彼女を「パワフルな声、美しさ、勇敢さ、知的さ。まさにドキュメンタリーの被写体に望まれる魅力をすべて兼ね揃えた女性」だと確信した。

 

こうして、ドスキー監督はISの手中にあったコバニに2014年から2016年の3年間、合計9回に渡って訪れ撮影をした。撮影班はこれまで戦地での撮影経験がなく、クルーの安全を優先し、街の大部分が解放されるまで監督ひとりで撮影を行なった。時にはトルコ兵士に捕まり、暴行を受けたこともあったという。

 

本作はドキュメンタリー映画でありながらも、ただ単に現実を伝えるだけでなく、「未来のわが子へ」というディロバンの手紙の語りとともに物語は進んでいく。この手紙を使うアイデアは、どんなに激しい戦闘、街のいたるところに放置された遺体、IS兵士への尋問などの過酷な映像を撮影・編集したとしても、まだ何かが足りないというドスキー監督によって、ディロバンに依頼したものだった。

 

ドスキー監督から手紙の依頼を受けたディロバンは当初は自分に子供がいなかったことで当惑したが、次世代へのメタファーとして手紙を書いてほしいという監督からの説明を受けて、自分たちが受けた悲惨な出来事や感情を「未来のわが子へ」という手紙に綴った。その手紙の中で最も印象深いのが「戦争に勝者などいません」「どちらも敗者です」という言葉だ。

 

戦争は勝者にも敗者にも犠牲者が必ず出るものだ。その数だけ家族があり、悲しむ人たちがいる。悲しみのない戦争なんてないのだから。

 

ラジオ番組の放送中にゲストのジャーナリストから、この戦争について問われてもうまく答えることができなかったディロバン。戦争は悲惨なものだと頭ではわかっていたとしてもクルド人の悲しい歴史を考えると、正しい答えなんてきっと誰も答えることができないだろう。

 

この映画を観て最も強く感じることは、紛争や戦争の悲惨さなどではなく、平穏な日々こそが幸せなのだという人間の本質についてである。子供を見つめる母の顔、通りで遊ぶ子供たち、角を曲がると漂ってくる焼きたてのパンの香り、公園で視線を交わす男女の風景、そんな日常の喜びと生活こそが中東の未来と希望を感じさせてくれる。現在も不安定な情勢が続く中東において、コバニの街は日常を取り戻しつつあるが、平穏な日々が長く続くことを祈るばかりだ。

 

この映画は完成後シリアの国営テレビ局で放送され、約200万人が視聴したという。現在、ディロバンはラジオを辞め、彼女の夢であった教師となって次世代を担う子供たちを育てている。ラジオ番組「おはよう コバニ」はディロバンの友人たちによって放送は続いている。

 

本作はアムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭(IDFA)オランダ・ドキュメンタリー部門サウンド&ヴィジョン賞受賞、コペンハーゲン国際ドキュメンタリー映画祭(CPH:DOX)F:ACT賞など世界各国の映画祭において様々な賞を受賞しているが、戦争を紛争を背景にしながらも、そのリアリティに特化することなく、手紙を通して現在から未来へと繋げるストーリー展開となっているところが評価されているのではないだろうか。

 

また、世界的に権威のあるドキュメンタリー映画フェスティバルIDFAでは、インタラクティヴ・ドキュメンタリープログラムにも積極的で、DocLabという新しい取り組みもしており、そのHead of New MediaであるCaspar Sonnenのインタビューも、2018年2月28日発売の「QUOTATION」では紹介している。インタラクティヴ・ドキュメンタリーに興味がある人はこちらもぜひ読んでみてほしい。

 

 

 

ラジオ・コバニ

(2016年/オランダ/69分/クルド語/2.39:1/カラー/ステレオ/DCP)
監督・脚本:ラベー・ドスキー
出演:ディロバン・キコ
撮影監督:ニーナ・ボドゥー
第2カメラ:レベー・ドスキー
音声:タコ・ドライフォウト
編集:クサンダー・ネイストン
音楽:ユホ・ヌルメラ
サウンドデザイン:タコ・ドライフォウト
製作:ジョス・デ・パター
配給:アップリンク
字幕翻訳:額賀深雪
字幕監修:ワッカス・チョーラク

公開日
2018年5月12日(土)より、アップリンク渋谷、ポレポレ東中野ほか全国順次公開

公式サイト
http://www.uplink.co.jp/kobani/

 

 

 

 

 

 

 

March 5,2018