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フィリピンの映画監督、ブリランテ・メドーサによる 『ローサは密告された』が公開中

text by Asako Tsurusaki

(c)Sari-Sari Store 2016

 

いまアジアの映画界で最も急速かつ独特な成長しつつある国フィリピンから、また物議を呼ぶ作品がやってきた。東南アジア最大のスラム街を擁するマニラで毎日を生きる女性ローサ一家と麻薬密売という日常、そして警察との麻薬撲滅戦争という恐怖の連鎖を描いた『ローサは密告された』だ。

 

マニラのスラム街の片隅で、サリサリストア(日本のコンビニエンスストアのようなもの)を、だらしないが木は悪くない夫と切り盛りしているローサ。常連客、近所の顔見知り、密接して暮らす人々のつながりは深く、しっかり者のローサはみんなの母親的存在だ。ローサには4人の子供がおり、サリサリでは家計のため本業に加えて少量の麻薬を扱っている。ある日、何者かの密告よりローサ夫婦は逮捕されることとなる。連行された二人は署内でさらなる売人の密告、高額な保釈金など、まるで恐喝まがいの要求を警察からうけることとなる…。

 

貧困率が22%(2015年)を超え、その多くがひしめき合ってスラムに暮らしているマニラ。そこでの犯罪は絶えず、薬物常習者、密売人も多い。加えて社会問題になっているのは、「捜査」の名のもとに私服を肥やしている警察の存在だ。もともとフィリピン警察内部の悪事は問題視されていたが、ロドリゴ・ドゥテルテ大統領就任後、警察・自警団による麻薬に関わる者への超法規的行為がスピードを増し、その存在に恐れをなして自首する者が後を絶たず、刑務所の収監人数を大幅に超えているという。また
イスラム系過激武装組織への対策として5月23日より敷かれた南部ミンダナオ島周辺地域への戒厳令、そして独断の施行延長など、マルコス独裁政権の戒厳令を思わせるその行為に反発するフィリピン国民のデモが多く開かれていることは、あまり多く日本のメディアで紹介されていない(フィリピン憲法では、侵略や反乱が発生した場合、公共の安全を確保するために60日間を超えない期間で戒厳令を発令する権限を大統領に認めている。つまり憲法的には、7月末には解除されていないといけない)。

 

メンドーサの映画で登場する、家族を支え強く生きる女性の象徴的存在ローサ。そして密接して暮らす人々の深いつながりさえも断ち切る、フィリピン全体を覆う恐怖の連鎖。しかしメンドーサはその重苦しく深刻な状況を、登場人物の心理を深くえぐるのではく、そのアクションのみで描いてゆく。

 

「彼らにとってはこれがいつもの、日常的な状況なのです。彼らは物事をあるがままに受け取る。彼らは感覚が麻痺してしまっているので、嘆きも抵抗もしない。そもそもほかに選択の余地もないのです。ローサの娘ラケルが転ぶ場面は象徴的です。彼女はとても狭い路地を歩いている。ほかに道はありません。誰かが水を捨てる。別に悪意からではありません、仕事だからです。娘は滑り、転ぶ。でも彼女は文句も言わず、自分を転ばせた老婆をなじりもしない。ただ立ち上がって、歩みを続けるだけです」。

 

ラストシーン、路上の屋台で涙を流すでもなく淡々とフィッシュボールの串を口に運ぶローサの姿がとても印象的だ。そこにはもはや未来を憂う悲しみもなく、今を生きる姿がある。

 

 

『ローサは密告された』
(2016/フィリピン/110分/原題 MA’ROSA)
監督・製作総指揮r:ブリランテ・メンドーサ(Brillante Ma Mendoza)
プロダクション:CENTERSTAGE PRODCUTIONS
配給:ビターズ・エンド
©Sari-Sari Store 2016

シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開中
www.bitters.co.jp/rosa

 

 

 

 

 

 

August 31,2017

(c)Sari-Sari Store 2016

(c)Sari-Sari Store 2016

(c)Sari-Sari Store 2016

(c)Sari-Sari Store 2016

ブリランテ・メドーサ監督

ブリランテ・メドーサ監督