QUOTATION

ロンドン・V&Aにて開催されている「Balenciaga: Shaping Fashion」展からみえてくるBALENCIAGAとは

text, photo : Yoshiko Kurata

会場となっているヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(Victoria and Albert Museum)

 

近年パリのファッション=幻想的なファッションシーンを物の見事にJacquemus, VETEMENTS, Y/Projectなどが打ち破ってきた。そしてフランスはファッションだけではなく、政治も若いパワーに身を任せるように何か変革を求める時代感になってきたように思える。

デザイナー交代劇も、ある意味時代に取り残された感覚を払拭するように変革を求め、めまぐるしい回転率で回っている。(正直名前も覚えられないくらいに)良くも悪くも服以外の部分でもトレンドを作ってしまうのはファッションの面白さでもあり、また、時には失敗する場合もある。

そんな交代劇の熱りが落ち着いた頃、VETEMENTSで既に高い注目度を集めていたDemna Gvasalia(デムナ・ヴァザリア) が打ち出したBALENCIAGAデビューコレクションはもちろん賛否両論=ビックニュースとなった。いまや「DemnaのBALENCIAGA」というイメージが強いが、今日までBALENCIAGAはそもそも何故歴史的ブランドとして確立してきたのだろうか?そしてDemnaを起用した理由は?

2018年2月18日までロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(Victoria and Albert Museum)で開催されている「Balenciaga: Shaping Fashion」にて、その歴史と今を紐解こう。

 

スペイン・フラメンコからの造形美へのこだわり

 

スペイン出身のCristóbal Balenciagaは、母親が裁縫師であったことから幼少期に母親の下で縫製作業を行う日々だった。12歳では洋裁師見習いとして働き始め、独学のまま10代の頃にパトロンを付けてしまう。24歳の頃からスペイン内に3店舗ブティックを開くものの、1936年に勃発したスペイン内戦の影響ですべての店舗を閉めて、パリへ本拠地を移す。これ以来ブランドの本拠地はパリとなるが、初期のデザインは母国・スペインの文化から影響を受けていた。例えば、造形として象徴的なスペイン・フラメンコのドレス。女性の体のラインに合わせるようなぴったりなウエストラインから尾をひくように伸びるボリューミーなフリル。フラメンコのドレスから派生するように、その後も彼はボリューミー造形的な衣服を展開していく。

それは一般的に言われている「デザイナー」のイメージのようにデザイン画から思いつくような突飛押しのないものではなく、彼の場合は常に布と会話し続けた。すべてのコレクションの出発点は布が握っていて、その後形を作るのは、彫刻のように組み立てられていくパターンへのこだわり。

展覧会でもただマネキンに飾るだけではなく、X線で中の構造が見えるようにしたり、360度から眺められるように回転台を用意したり、パターンを実際に感じられるようにA4紙1つでミニチュアドレスを作るコーナーまで設けられていたほど。このような斬新なシェープのアイディアは、当時の女性たちを魅了し第二次世界大戦の時代でもわざわざヨーロッパに駆けつける程人気を博した。

DemnaによるBALENCIAGAを見ても同じことが言えるだろう。VETEMENTSでは既にロングスリーブを自ら禁止してしまったが、彼が現在BALENCIAGAのデザイナーとして作る服はスタイリングだけでは形作れない奇形さを保つ。今やトレンドになってしまったがために、見慣れたスタイルだが、本来BALENCIAGAとDemnaの根底で共通している所は「ストリート」の文脈でもある。実際に展覧会でも、煌びやかなハイブランドの世界に君臨しつつも、サイクリングや昼夜問わず着用できる着脱式のスカートなど、私たちの生活=ストリートに適した服を打ち出していた様子がわかる。

 

Demnaによる新しいファッションシステムの確立

 

Demnaの生い立ちは、BALENCIAGAとは全く持って異なる。ロシア出身で幼い頃からファッションは好きだったが、自国の大学では経済学を専攻していた。その後も自分自身では会計士になるだろうと予想していた程だが、アントワープとの出会いが彼のデザイナーとしての道を開かせた。その後は、周知の通りマルジェラ、ルイ・ヴィトンを渡り歩き、自身のブランドを設立。(実はVETEMENTSの前にStereotypeというブランドを立ち上げていたことも。)スペインとパリとは異なり、ロシアは閉鎖的で(いまでも旅行者は前もって行く場所を決め、美術館は事前予約していないと入らせてくれないそうだ)19歳で渡ったドイツで全ての知識、カルチャーを吸収した。

そんなDemnaは、自身のブランドとBALENCIAGAともにこれまで高所得層にむけられるだけだったパリファッションウィークに新しい息吹を吹かせた。アンダーグランドな場所でのショー開催や、See now Buy nowへの参加、オートクチュールへの参加、ショーの開催中止など様々な変遷を経て絶えず人々の注目を集めるニュースを打ち出している。そしてVETEMENTSに限ったことではなく、See now Buy nowを筆頭にハイブランドが彼らを真似するほどに周りを巻き込みながらムーブメントを作り上げた。これらの戦略の裏には、Demnaの弟でありCEO・Guram Gvasalia(グラム・ヴァザリア)の存在がある。ショーの裏側でさえも電卓を叩いてる、とネタにされるほど(Show Studioより)数学に長け、いままでに国際ビジネス、経営学、法学での学位を持ちながらも、Burberryのセールス部門での経歴も持ち、学歴と実践を経験した32歳だ。メディアも消費者も振り回されるニュースの背景には、一貫して過剰生産・セールスを減少させる意図も含まれている。そして実際にその試みは、1956年に既にBALENCIAGAとGIVENCHYが行っている。

BALENCIAGAはGrand Salonにて年に2回ショーを行っていたが、1956年に新しいルールを作ることで賛否両論を呼ぶことになる。新作コレクションを初お披露目するタイミングでメディアを避けるようにした。違法なコピーを避けるためという理由だったが、なんとお披露目に1ヶ月間メディアを意図的に待たせたのだ。この新ルールにGivenchyも乗っかり、約10年間彼らはこの2ブランドのためだけにメディアをパリに来させる仕掛けと期待値を生み出した。

 

独自の商売方法

 

人々がヨーロッパまでわざわざ足を運び、熱狂しなくなってもBALENCIAGAには、世界的に通じる流通方法を考えていた。いまや当たり前になってることと言えば「路面店以外に卸すこと?」と考え付くが、彼は卸すだけではなく、意図的に正式なコピー出来るようライセンス販売も行っていた。ハロッズをはじめ、大手百貨店とライセンス契約することで、全世界各国の職人によってコピー可能となった。ライセンスのもと各国でBALENCIAGAの服が手に入れられることで、女性たちは大袈裟なドレスをわざわざパッキングする手間もなくなったのだ。

Demnaの服は、おそらく世界中で違法コピーされているかもしれないが、オリジナルは世界的に限定数量でしか量産していない。だからこそ、値段が高くてもオークションを競り落とすかのように人々が夢中になるのである。自然と付加価値が上がる一方、弟・Guramは上記で書いた通り従来のファッションシステムから「セール」「大量な売れ残り」という悪循環を変えようという業界を俯瞰した狙いも持っている。新作では、前回のそれぞれの職種のステレオタイプが登場してくるシーズンとあまり変わらない服を並べたが、それもまた消費者を飽き飽きとさせるのではなく、「これがラストチャンス!」とワクワクさせるような仕掛けでもあるのだ。

 

影響を受けたデザイナーたち

 

展覧会の会場2階では①Minimalism(ミニマリズム) ②Shape Volume(ボリュームの造形) ③Perfection(完璧さ) ④Innovation pattern-cutting(革命的なパターンカッティング)の4つの視点からBALENCIAGAに影響を受けたデザイナー・服が展示紹介されている。

「Shaping Fashion」というタイトルの通り、BALENCIAGAは今までにない造形美を作り上げ、服だけではなく新しいファッションサイクルと流通方法までをも形作ってしまった歴史的なブランドであることが展覧会で感じられた。現在DemnaのBALENCIAGAにはロンドンメンズブランド・Martine Roseのデザイナーがメンズデザインにて、アントワープ出身のデザイナー・Jurgi Persoonsはコンサルタントとして、BALENCIAGAに携わり、彼自身が感じる空気感と業界の経験者によるバランス感覚両刀を持ち合わすチームを作りあげている。

また、パリ・Colletteでは、今年8月5日までBALENCIAGAによるインスタレーションが開催中。ベルリンビエンナーレに参加したこともあるアーティスト・Yngve Holenの車を輪切りにした作品が並ぶ。今後もsacai, CHANELなど錚々たるブランドを巻き込むコレット主催のデザイナー企画の皮切りだそう。ぜひロンドンとパリ両方でBALENCIAGAを感じてみては。

 

 

 

 

 

 

August 12,2017

X線によって斬新なシルエットの構造が明らかに

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17AWフィナーレに登場したルックに近いマテリアル

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Demnaが用いるオフィスルックの源泉はここに

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Irving Pennによる撮影でモデル・Lisa Fonssagrivesが着用していた服も

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BALENCIAGAに影響を受けたデザイナーたちを紹介する2階のフロア

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歴代のBALENCIAGAのデザイナーたちによるコレクション

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BALENCIAGAが影響を受けたデザイナーによるコレクション

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