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『ザ・ダンサー』ステファニー・ディ・ジュースト監督インタビュー

interview & text by Asako Tsurusaki

© 2016 LES PRODUCTIONS DU TRESOR - WILD BUNCH - ORANGE STUDIO - LES FILMS DU FLEUVE - SIRENA FILM

1900年代パリに生きた、モダンダンスの創始者ロイ・フラーの人生を描く
『ザ・ダンサー』ステファニー・ディ・ジュースト監督インタビュー

 

1900年のパリ万博の時代。ロートレックやコクトーが狂乱的なムーランルージュを描いたこの時代に、アール・ヌーヴォーを象徴するミューズとしてモダンダンスを生み出したロイ・フラーというダンサーがいた。当時の最新技術を駆使した舞台装置を生み出し、巨大な白いヴェールに包まれ、催眠術にかかったかのように激しく踊る彼女のダンスは「サーペンタインダンス」と呼ばれ、たちまちパリのアートシーンを席巻した。
そんな彼女の謎の多い生涯を描いた映画『ザ・ダンサー』が、パリの映像作家ステファニー・ディ・ジューストの手より生まれた。ここで描かれているのは、これまで知られることが少なかった彼女の舞台装置を見事に再現し、謎の多かったその動きを見事に再現した本作品では、ダンサーだけでなく彼女の若き才能が生まれる瞬間や、いかなる困難をも強い精神力や努力で克服する人、ロイ・フラーの人間らしい美しさが描かれている。公開に先駆けて来日を迎えたジュースト監督に話を聞くことが出来たので、ここに紹介したい。

 

 

◼︎あなたはこれまでいろんなMVやショートフィルムを手掛けられていますが、長編映画は本作が初めてですね。デビュー作でモダンダンス、とりわけロイ・フラーという人物を題材に選んだきっかけを教えてください。

これまで私は、自分のことを長編の映画を撮る力の無い人間だと思っていたんです。写真を撮ったり短編ビデオを撮ったりしながらもグルグルとした迷いがあって、なかなか長編映画を作る決心がつきませんでした。そんなある日、偶然にもアートの本の中に、巨大なヴェールに包まれた女性の白黒写真を見つけました。それが、ロイ・フラーだったんです。彼女に興味が湧いて調べていったら、とても素晴らしく劇的な生涯を送った人だということがわかりました。何故この人物の生涯は映画化されていないのだろう…。そう思ったのが、この映画を撮ろうと決心したきっかけです。世間から忘れらかけれているような、この女性の芸術に再び光を当てることが、自分に与えられたミッションだとすら思いました。それから脚本を書き初めて、気付けば実際に撮影に入るまで6-7年もかかってしまいました。

 

◼︎当時のロイの資料、特に映像はほとんど残っていないと思うのですが、映画の中では見事に再現されていたように思います。ロイの動きももちろんですが、舞台装置や照明の仕組みなど、とても綿密に描かれていました。これらの資料はどのようにして集めることが出来たのでしょうか。

ロイが踊っていると言われている映像がいくつか、YouTubeなどにアップされているのを見つけることは出来ます。でも実はそれはロイではなく、彼女を真似ている別人が踊っている映像なんです。ロイ・フラーを実際に撮影したものは、この世に存在していません。ですので私が資料として頼れたのは、ロイに関する本や写真でした。中でも特に読み込んだのが彼女のスケッチやデッサンです。彼女は「サーペンタインダンス」と名付けたこのダンスに対して特許までとっているので、そこから解読したりもしていました。またジョジ・スパーリングさんという、恐らくロイ・フラーの踊りが上手な人物にも出会えました。彼女は私に、300mも布が必要な衣装をどのように作るのかなどの情報を与えてくれました。でもそんな彼女自身も、照明技師が25名も必要な装置やダンスを実際に再現することは出来ていませんでした。私はこの映画で、考えられうる最高の技術者を集めました。照明に関しては、イヴ・サンローランの照明技師に協力をお願いしています。
ロイ・フラーという人物は、最初は本当にみすぼらしい格好をして、ただ踊っているだけのダンサーからスタートしました。それがパリの舞台に立ち、魔法が起きたのです。1900年代当時の観客が実際に目の前で見た、その魔法のような変身の場面。これ本当に実現・再現できるのか、私たちにもわかりませんでした。でもくじけそうになった時、当時の詩人マラルメ達が書いた批評を読み直したりしているうちに、やっぱり本当に魔法は起きたのだと、自分に言い聞かせて撮影を続けました。

 

◼︎ロイもですが、イサドラ・ダンカンも大変な映像嫌いで、隠し撮りされた映像しか残っていないと聞いています。ダンカンを演じたリリー・ローズの踊りは、即興によるものだったのでしょうか。それとも「ダンカン・ダンス」のレッスンの様なものを受けたのでしょうか。

実は踊っているイサドラ・ダンカンの映像は、少しだけ残っているんですよ。彼女は確かに映像嫌いでしたが写真はとても好きで、資料としてたくさん見ることが出来るんです。イサドラ・ダンカンの動きに関しては、ヴァネッサ・クリードリープさんというダンサーの動きにも若干インスパイアされながら、イサドラ・ダンカンの写真からジェスチャーを読み解き、それらを元にして作りました。ここで特に描きたかったのは、彼女のダンスの動きももちろんですが、それ以上にイサドラ・ダンカンという女性が巻き起こしたスキャンダラスなダンス、パフォーマンスでした。ロイが初めてイサドラ・ダンカンを踊らせた時、彼女は半分裸のような格好で観客の前に出ていったんです。映画のシーンにもありましたが、あまりにもショックを受けた観客が何人も帰ってしまったもので、ロイが舞台に出て「ごめんなさい、イサドラは衣装を忘れてしまったの」と弁解した、などという説も残っています。

 

◼︎家族や恋人、ダンカンとの関係性、また母親の確執や父親の描き方など、この作品には実際のロイ・フラーの人生にある程度のフィクションが入っています。実際には彼女が子役からキャリアをスタートしてパリにたちましたし、ルイ伯爵は架空の人物だと聞いています。ロイの人生にあなたのオリジナルのストーリーを入れることによって、彼女の生涯をどのように描こうと考えたのでしょうか。

そうですね。特に父親に関しては、実際の人物とかなり違います。その主な理由は、ロイという人物をソーコにやってもらいたかったからなんです。ソーコはフランス人ですから、実際のロイのように、アメリカ英語のアクセントが残るフランス語を話すことを強いることは不自然になると思いました。そこで、劇中のロイの父親をフランス系移民のアメリカ人という設定に変えたんです。
調べていくうちにわかったのですが、黄金を求めて宝探しにアメリカへ移住してきた「forty nigners」と呼ばれるフランス系の移民が、実際に19世紀末にはいたそうです。お酒に溺れてロデオを遊ぶ農民という人物像は、実際のロイの父親と同じです。
ロイの母親は、劇中と同じく敬虔なプロテスタントで、「マザーズ」と呼ばれる当時の女性運動の活動家でした。劇中と違うのは、ロイは母親をフランスまで連れていくなど、非常に古典的な母と娘の関係性というものを最後まで全うそうです。でも私はこの映画で、アメリカにお母さんを置いていきたかったのです。いわゆる「マザーズ」という運動に傾倒している母親像というものをアメリカに置いていくほうが、映画として活きるのではないかと思ったのでそのようなストーリーに変えました。
また恋人に関してですが、ロイ・フラーは同性愛者だったんです。ウィリアムというアメリカ人の銀行家と結婚していましたが、それも愛情ではなく、メセナとしての存在でした。このウィリアムを通して、劇中のルイという恋人像が生まれました。ちなみにダンサーの学び舎だったルイの館は、実際にその時代に存在していたお城です。私は時代物を描く時に、人工的なセットで撮影するのは嫌いなのです。

 

◼︎ロイ・フラーは同性愛者とのことでしたが、ソーコさんもカミングアウトされているバイセクシャルの方です。確かにこの映画でのロイは、男性とよりも女性との描写のほうがとても美しく感じました。

イサドラ・ダンカンは、映画の中では裏切り者のような描かれ方をしていますが、唯一ロイ・フラーを裸にすることが出来た人物です。ロイにとっての女性の体、自分の体を認めさせ、素の自分を再発見させたのが、イサドラ・ダンカンだったんです。

 

◼︎イサドラ・ダンカンはやがて、「100万ドル出したら戻るわ」と出ていって戻りませんでした。あの瞬間から、ロイは自分の踊りを取り戻したように感じましたが。

ロイはイサドラに縁切られ、そこで初めてロイは同性愛者である自分を認めます。ラストシーンのパフォーマンスで、お客さんの前に自分をさらけ出すことで、初めていままで自分自身を認めることが出来なかったロイが、いまの自分を認める。その瞬間でもあったわけです。

 

◼︎ロイは最初から自分の体にコンプレックスを持っており、衣装や動きなどの軽やかさというものを追求していくようになります。しかし成功するにつれて体への負担も重くなり、皮肉にも逆に体がどんどん重くなっていきますね。彼女自身の動きや肉体もそうですが、体を冷やさないようにコートを羽織るなどの演出からも、その重力が感じられます。対してイサドラは薄いドレス一枚で軽やかに踊り続けます。それはロイがずっと求めていたのに出来なかったことであり、その対比の描写が素晴らしかったです。

人生の不公平というのは世界のどこでもあるものです。イサドラ・ダンカンという人物は、ただ人前に現れるだけで人を惹きつけることが出来ます。しかしロイ・フラーは、自分自身の姿をヴェールで隠さないと人を惹きつけることが出来ません。その不公平さが、私がこの映画の中で描いていきたかったところです。

 

◼︎確かに、イサドラは「自然の光があればいい」と発言したり、ロイにギリシャ神話のような衣装や赤い紅を強いるなど、自分の色に染めていこうという描写が見られます。それに対し、ロイは最初戸惑いを見せつつも、次第にイサドラの世界に入っていってしまいます。だからこそ、イサドラから縁を切られることで彼女の幻影という殻、コンプレックスから抜け出すことができるようになるのですね。

天性の素質を持っているイサドラ、そして彼女の若さ。これらに対してロイは全く太刀打ち出来ません。ロイがイサドラのように振舞おうとした時の姿は、非常に滑稽にも映ってしまうんです。ロイは結局イサドラから決別の手紙をもらって二人の仲は終わりを迎えますが、これは実際にあったことです。でもイサドラの笑顔を見ていると、作り手としては何か映画を作りたくなってしまうんですよね。

 

◼︎この映画でとても印象的なシーンの一つに、パフォーマンスのあとに白いヴェールに包まれて運ばれるところがあります。まるで長距離のマラソンを走り終わった選手がコートで覆われ運ばれるような、アスリートとしてのロイの側面です。実際にこういうことはあったことのでしょうか。

実際にそうだったらしいです。私がイメージしていたのは、打ち上げられたクジラを運ぶ、そういうイメージでしたけれどね。実際にロイはパフォーマンスをした後、3日間程は疲労困憊して踊れなかったそうですよ。

 

◼︎ジムのような器具で鍛えているシーンもありましたが、ロイは自分を高みにあげるために、自分にとても厳しい人だったのだと思います。そのように精神力がとても強い人としてロイを描いたのはどうしてだったのでしょうか。

私の重要したのは、ソーコをボクサーのように描きたかったということです。彼女は映画の中で、常に動いています。唯一映画の中で静止しているのは、一番最後に自分自身であることを認めた、あの瞬間です。それ以外はいつも衣装を着て、飛び回っているときも、重力を感じさせるダンサーです。そんな風に彼女を描こうと思いました。

 

◼︎ラストのオペラ座のシーンでは、実際にオペラ座を使われたと聞きました。あそこで撮影の許可を得るのはとても大変だったと思いますが。

もう本当に、一番苦労した撮影現場でした…。撮影の許可は午前3時から午前8時までと決められていたのですが、実際にカメラを回せたのは2時間だけだったんです。この現場では3カットの撮影が必要だったんですが、ギリギリまで撮っていました。そしてリミットがきた瞬間、観光客が朝入ってこなくてはいけないということで、文字通り追い出されてしまいました(笑)。ここでは柔らかく反射する巨大な鏡を6枚を使って撮影しました。

 

◼︎ここでのロイのパフォーマンスは、これまでの彼女の踊りの中で一番美しく、まるで重力から解放された水中花のようでした。

メルシー。この時ロイは、自分のパフォーマンスの出来栄え以上の成功を得ることが出来たんです。それは、ロイが自分自身のことを認め、そして周りから認めてもらうことが出来たということ。そういう意味で最後のシーンは、ロイにとってパフォーマンスとしては失敗だったけれど、人間として成功だったのではないかと思います。

 

 

 

[『ザ・ダンサー』について]
第69回カンヌ国際映画祭ある視点部門正式出品/第42回セザール賞6部門ノミネート
監督:ステファニー・ディ・ジュースト
出演:ソーコ(「博士と私の危険な関係」)、リリー=ローズ・デップ(「Mr.タスク」)、ギャスパー・ウリエル(「たかが世界の終わり」)
原題:La Danseuse/2016年/フランス・ベルギー/仏語・英語/108分
配給:コムストック・グループ/配給協力:キノフィルムズ/

6月3日より、新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座、Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開中

http://www.thedancer.jp/

 

 

 

 

 

June 6,2017

© 2016 LES PRODUCTIONS DU TRESOR - WILD BUNCH - ORANGE STUDIO - LES FILMS DU FLEUVE - SIRENA FILM

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ステファニー・ディ・ジュースト監督  Photo:Masato Seto  Hair&Make up: Naoki Hirayama (Wani)

ステファニー・ディ・ジュースト監督  Photo:Masato Seto  Hair&Make up: Naoki Hirayama (Wani)