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Ina Jang 個展 “Mrs.Dalloway” インタビュー

interview, text : yoshiko kurata

unrock,2015 ©︎Ina Jang

 

5月28日(日)まで、恵比寿・G/P galleryにてIna Jangの個展 ”Mrs.Dalloway” が開催している。今回の作品を観た時に、彼女のマインドは変わってないにしても少し作風が変わったように感じた。それはフォトグラファーの領域を超えて、むしろヴィジュアルアーティストと呼んだ方がいい気がする。当の本人はそんな細かいことは気にしてなく、大雨の日に展示準備に追われながらも恵比寿のカフェで気軽に色々なことについて話してくれた。一貫して言えるのは、全てにおいてポジティブであること。「やってみよう!」という清々しさだ。彼女の作風は、しばしば ”プレイフル” という形容詞を纏うが、彼女自身が柔軟な考えを持ち、何にでも挑戦できる姿勢が自然に表れているのだと思う。

今回の個展について、写真について、人々と写真の関係性などについて話を聞いた。

 

 

◼︎最近、Walter Benjamin 著書「複製技術時代の芸術」を改めて読み直したんだけど。直接的には繋がってないと思うけど、今回の手法ってアート作品を撮影した後に、ネガフィルムをカットアウトしてるよね。複雑なプロセスでもあり、写真の特性も活かしていると思うけど、制作への経緯や制作方法について教えて。

私もその本は読んだことあるよ。今回の制作方法は複雑なように見えるけど、アイディア自体は実にシンプル。もともとこの手法を使い始めたのは、2015年頃に上海である中国の岩を撮影したいと思って国立公園に行ったら、そこはいつも観光客がいるような場所だから、岩の後ろの背景が気になってしまって。岩の写真をいかに撮影できるか考えながら、とりあえず自分の携帯電話で写真をたくさん撮ったんだけど。その後PCで岩を合成したり、色彩を変えたり、どのようなヴィジュアルが出来上がるのか感覚的に楽しくて。でも、案外その1日で作り終えてしまって。それなら、このアプローチを3ヶ月やってみようと思って、衝動的に興味が湧いただけだけど、フィルムで岩を撮影して、他のフィルムでは背景を撮り、その後カットアウトして組み合わせてみたんだよね。それが今回の作品制作の原点かな。最初に作った作品は、マスキングテープでそれらの写真をコラージュしてたよ。

 

◼︎本当にシンプルにコラージュの手法と同じだね。撮影して、コラージュして必要であればペインティングもするんだよね?

今回の展示作品は、昔撮影した写真もコラージュの素材として使っているし、そこに色を足してる時もあるね。画面上、赤色が欲しくてもネガフィルムでは赤色を表現できない。だから、ネガをパレットとして自分の頭の中にある色を付け加えていって、それで、最後はコラージュを撮影する。

 

◼︎あくまでも最後のアウトプットも写真なんだね。撮影した写真には何年代のものが含まれているの?

素材の中には、2007年頃のフィルムもあるよ。アート作品を撮影するようになったのは、初めてパリ・ルーブル美術館に行った時で、それ以来、アート作品を撮影するようになった。普通の人でも美術館にいくと写真を撮るし、いまではもちろん携帯でも撮影できる。それは10年前ですらも、古いデジタルカメラかフィルムカメラで撮影してたわけで。そこで、そういうふうに過去にアート作品を写した写真は、最終的にどこにアウトプットされるのかを考え始めて。そしてスクリーン越しと現実世界においてのペインティングの在り方についても興味が湧き始めたんだ。だから今回の作品においても、カメラでオリジナルの世界を再生産したのち、複製されたイメージにペインティングとコラージュをしているんだよね。

 

◼︎コラージュの手法自体は、モデルを用いた撮影においてプロップを使用している要素とも似てるよね。でも今回の作品は何か変化を感じたのだけど、Inaの考え方は同じ?

私の頭の中では、本質的に何も変わりはないわ。前からカットアウトは行っていたしね。でも、確かに表層的にヴィジュアルとしてかなり違うよね。なぜならフィルムをカットアウトして、そのピースそれぞれは時間も場所も次元も異なるからだと思う。初めて各地の美術館に行った時の写真、それから再びコラージュに使う色を拾いに行った時の写真、それらをカットアウトして1つのイメージに収めるから。様々な時間が打ち壊されて、1つのイメージが出来上がってる。

 

◼︎そういう過去の写真を見返している中で、自分の気になる作品のほとんどが男性作家であることに気がついたんだよね?

うん。プロジェクトを進めている中で、そのことについて考えを巡らせるようになったんだよね。色々な美術館に行けば行くほど、作品の大半が男性作家であることに気がつき始めて。例えば、MOMAでさえも80%くらいは男性作家の作品が展示されているし、古い美術館であればあるほど男性アーティストの割合は高いと思う。ニューヨークに限らず様々な国でアートの勉強をするにあたって、自然とみんな男性作家の影響を受けてるんじゃないかな。もちろんこの数年で女性作家が急激に活躍しているから、今後割合にも変化が出てくるかもしれない。新しい世代は、独自の新しい視点も持ってきてくれるしね。でも私の世代では、ピカソ、マチスなど男性アーティストに囲まれて育ってきた。だから、改めてそういう自分が育ってきた環境や価値観に興味が湧いて、どのように男性アーティストの作品を自分なりに作り直せるか、消化できるか考え始めたんだよね。

 

◼︎自分自身を「女性作家」として考えたりはしなかった?

全然。ただ好奇心旺盛なだけだからね。だって、特に日常で自分のジェンダーについて考えたりしないでしょう? 私のアプローチとしては、360℃様々なことに興味があるから写真でそれを形にしているだけ。決して言葉とかでは伝えられないんだけど、そこを写真で表現している。特に女性アーティストについても言及することはないけど、ただ男性アーティストの考えだったり視点について考えを巡らせているだけ。例えば日常的なことで言えば、ニューヨークの学校では先生の大半が、白人の男性だったけど。特に人種について言及したいわけじゃなくて、単純にもし女性の先生から教育を受けていたら、自分の価値観ってどうなってたんだろう、とふと考えたりもするんだ。

 

◼︎過去の様々な記憶について考えを巡らせながら、どのように男性作家がInaに影響を与えたのか俯瞰して想像してたんだね。

そうね。一方で、メディアがどのように女性を見ているかというのにも興味があるし、女性アーティストがどのような表現をしているかも気になる。

 

◼︎作品のタイトルでもある書籍「Mrs, Dalloway」との関連性について教えて。私としては、そういうふうに男性作家の作品を素材として使いながらも、女性作家で展示を包括している所が気になるんだけど。

タイトルについて考えた時に、なんてつけようかなあと思って。とりあえず今まで自分が読んだ本を見返してみたんだ。そしたら、よくVirginia Woolf の書籍を読んでいることに気がついたんだよね。彼女はとても強いフェミニストだったんだけど、何かヒントがあるかもしれないと思って。とはいえ、長い間読んでなかったりもしたから、どういう本だったかは鮮明に覚えてなくて。なにか女性的なワードはないかな、と思って「Mrs. Dalloway」の冒頭1文目「Mrs. DALLOWAY said she would buy the flowers herself.(ダロウェイ夫人は自分で花を買いに行くと言った)」を参照したの。私にとっては、とても重要な1文だったし、彼女が花を自分自身で買う姿も好きだった。特に私が美術館に行くことと直接つながってはいないけど、もっと本質的なことを言えば、この本も様々な時系列を行き来するのね。そのパートにシンパシーを感じたの。
なぜなら、さっきも言ったように今回の展示作品は、様々な時空を行き来していて、とてもパラレルワールドの感覚に近いものを感じるから。それにタイトルの「Mrs.」も「古い」感じがするよね。「Mrs. Dalloway」とは、誰なんだろうって少し立ち止まらせる力もある。直接的なワードでないにしても、とてもストーリー性に富んでると思う。

 

◼︎コンセプチュアルだね。

そう。とてもコンセプチュアルだと思う。John Bergerの「見るということ」って読んだことある? 絵画はオリジナル1点ものであるけど、写真って日常に普及していくものじゃない? とても民主主義的。モナリザはもう誰でも知っている存在であるけど、実際ポストカードで見ていたはずの彼女は美術館だとかなり違うよね。だから、写真のおかげで絵画は、ある意味多衆にとって親しみやすいものにはなったと思う。それはポストカードだけではなく、SNSを通しても同じようなことが起きているよね。モナリザはルーブルの中で大事な存在ではあるけれど、それは形態を変えて私の家の壁にも携帯にもある。そうやってどこにでも作品の複製を置けているように、写真は絵画にあるコンテキストをさらに面白くさせているんじゃないかな。

 

◼︎そうだよね。Inaの話を聞いていて不思議に思うのは、日本ではそういうふうに複合的に様々な要素をミックスした写真を打ち出す人は少ないと感じるんだよね。実際Inaは、どのように写真を教わってきたの?

写真学科専攻で、生徒に写真というメディウムそのものについて考えさせる授業が多かったかな。写真がどのような意味合いを持つものか、なぜ写真を撮るのかというような批評的な考え方も自然に芽生えた。もちろんプロになるために写真技法を学ぶ授業もあったけど、それよりも写真そのものにフォーカスしてたと思う。だからほとんどの生徒は、写真の撮り方というより、写真に対しての向き合い方を教わってたよ。なぜ撮るのか、という自問自答を繰り返し訓練したと思う。それは、最終的にいまの自分にも良い意味で反映されている。

 

◼︎あくまでも写真をツールとして考えているわけだね。アート作品と写真は、オリジナルと複製という関係性を持っているけど、今回ペインティングもやってみたことで何か両者の違いについて身体的に感じたことはある?

写真は、すべて機械を通して出来ることだと改めて感じたよ。写真を撮るにしても、カメラ、ライトなどが必要。撮り終わっても暗室、スキャナー、プリンターなど兎に角機械に囲まれているよね。すべての工程を終えて完成したものだけ、自分の手で触ることができる。そういうある種ルールの中で制作してるように感じたんだ。それはフォトグラファーだけでなく、日常的に携帯で撮影するにしても同じことが言えるよね。だから、写真よりアート作品の方がもっと自由に自分の手で身体的に触れてるような気がした。今回私の場合は、特にアートの授業を受けずに色が必要だからペインティングを行ったわけだけど。そういう意味で、カットアウトやコラージュの技法を使うことで何か今までと異なる自由な感覚を写真に取り入れたいなと思ったんだ。

 

◼︎新たなヴィジュアルコミュニケーションを図るということだね。最近だとポストインターネットの世代の作品も出てきて、新しい写真の表現の仕方を見るようになったと思う。Inaは、あくまでもクラシックだけど、彼らはもっとエクスペリメンタルというか。

Instagram, Snapchatなどフィルター付きのソーシャルメディアに触れてきた世代だよね。彼らの世代は、あらゆる角度からメディア、写真とは何か、ということに探求できていて良い流れだと思っている。同時に、ある人たちは身体的に視点が見えるようなアナログな方法に戻る人もいるからもしれないよね。でも1つ絶対的に大事なのは、将来を見越してこれら作品をどのように定義をするかということだと思う。だって、私たちはこれから更に3D、ヴァーチャルリアリティなど新しいことにどんどん遭遇していくわけで。その途中に現在があって、いまの時代感はとても面白いと思う。様々な角度から既存の写真表現を超えていこうとしているし、とても速い速度で変わっていってるよね。フォトグラファーもPhotoshopだけでなく新しいマテリアルを躊躇なく使えるとも感じるし。

 

◼︎時代感として、今後はどのような変化を遂げると思う?

うーん。どういうふうに変わっていくかは、誰も予想つかないよね。 個人的には、5年後どういうふうに変わってるのか興味があるかな。いまの世代って第1インターネット世代だと思うから、既存の写真カルチャーを超えていけるんだと思う。だからこそ、新しいメディアや写真を超越した表現にとても期待できる。一方で、もっとノスタルジックやシンプルな写真に惹かれる人も出てきているんじゃないかな。それも良いことだよね。同時にシンプルなアプローチの写真に反応する人たちも出てくると思う。でも、それもいま出回っているような嘘のニュースや出来事によって、ダイレクトなアプローチに気がめいる人たちも出てくるかもしれないよね。

 

◼︎Ina自身は、今後どのようなアプローチに挑戦したいの?

うーん、基本的にオープンマインドだからね。リミットは設けずに、とにかく好奇心のまま写真を撮っていくと思う。今回のアプローチはしばらく続けると思うよ。

 

◼︎今後の予定は?

6月にスイス・Museum of Fine Arts Le Locle (http://www.mbal.ch/en/)で展示’Utopia’をやる予定。これらの作品は、インターネットにあったグラビアモデルの写真をもとになっている。日本や韓国にいる時に普通だった存在が、10年間ニューヨークに住むようになって、改めて彼女たちの存在を不思議に思い始めたんだよね。どのように男性が女性の存在をみているのか、それがどのように社会に消費されるのか、とか考え始めたんだ。とても受動的だよね。そこにはファンタジーに近いものも潜んでると思う。男性は理想像としてミルキースキンでピンクのチークをつけた学生服やコスプレをした女性が白いベッドで横たわっているのを求めている。そういう視点が面白いと思ったんだよね。

 

 

 

<作家プロフィール>
Ina Jang
1982年韓国生まれ。現在ニューヨーク在住。2010年ニューヨーク・スクール・オブ・ビジュアルアーツを卒業後、2012年同校MPSファッション・フォトグラフィーで学ぶ。写真のディメンションの概念に対して、女性的な繊細さにカットアウトなどプレイフルな要素を組み込んだ表現で高い評価を受けている。これまでの主な展覧会に「Fashioning Identity」京都精華大学ギャラリーフロール(京都、2016)、個展「ALL ROSES ARE RED, ALL BIRDS ARE BLUE」Foley Gallery(ニューヨーク、2015)、個展「in a world without words」G/P + g3/gallery(東京、2013)、デグフォトビエンナーレ2012(韓国)など。「Foam Talent 2011」の受賞をはじめ、また「Festivald’Hyeres 2011」「Foam Paul Huf Award 2012」のファイナリストにノミネートされた。彼女の作品は、「The New York Times Magazine」、「British Journal of Photography」、資生堂「花椿」を始め数多くのメディアに取り上げられている。
http://www.inaphotography.com/

 

 

<展示概要>
Ina Jang「Mrs. Dalloway」
会期:2017年4月13日(木)- 5月28日(日)
会場:G/P Gallery
http://gptokyo.jp/

 

 

 

 

 

 

May 3,2017

unknown, 2015 ©︎Ina Jang

unknown, 2015 ©︎Ina Jang

in her own room 2017 ©Ina Jang, Courtesy of G/P gallery, Tokyo

in her own room 2017 ©Ina Jang, Courtesy of G/P gallery, Tokyo

i,sigh,bye 2016 ©Ina Jang, Courtesy of G/P gallery, Tokyo

i,sigh,bye 2016 ©Ina Jang, Courtesy of G/P gallery, Tokyo

the bird 2017 ©Ina Jang, Courtesy of G/P gallery, Tokyo

the bird 2017 ©Ina Jang, Courtesy of G/P gallery, Tokyo

Watermelon 2016 Utopia ©Ina Jang, Courtesy of G/P gallery, Tokyo

Watermelon 2016 Utopia ©Ina Jang, Courtesy of G/P gallery, Tokyo