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『海は燃えている~イタリア最南端の小さな島~』ジャンフランコ・ロージ監督記者会見

text : asako tsurusaki

©21Unoproductions_Stemalentertainement_LesFilmsdIci_ArteFranceCinéma

地中海に浮かぶ、アフリカ大陸に最も近いイタリア領最南端島、ランペドゥーサ島。多くの漁師が生活を営むこの静かで小さな島は、夜になると普段の平和な日常とは別の顔を見せる。それは、アフリカや中東から命からがら地中海を渡り、ヨーロッパを目指す多くの難民・移民を受け入れる最前線の玄関口という顔だった…。
飛び交う無線、難民が乗ったボートを探すために夜の海に照らされるサーチライト。そんな緊迫した状況とは対照的に、日中の島はいつも通りの日常が流れてゆく。驚くべきことに、この両者は決して交わることはない。その理由は、ひとつが救援は主に深夜に行われるということ。そしてもうひとつは、数年前より受け入れ救援の活動を行う国境が海上と定められたということ(それまでは上陸してから受け入れられていた)。その両者を繋ぐたった一人の医師に出会った監督は、この”静かな衝撃”を美しい詩情のドキュメンタリーとして描きあげた。
前作『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』でヴェネチア金獅子を、今作でベルリン金熊を受賞したジャンフランコ・ロージ監督の、温かくも冷静に現実を伝える圧巻の作品。2017年1月都内で行われた記者会見での監督の言葉より、一部抜粋してお届けする。

 

[ジャンフランコ・ロージ監督記者会見]
「出会いから映画が生まれる」と、以前取材で伺ったことがあります。今回はどのような出会いがあり、この作品が生まれたのでしょうか。

いつも映画は出会いから始まります。今回は、ランペドゥーサ島との出会いがそうでした。この島はもう20年来、戦争や飢饉から逃げてきたアフリカ難民の玄関口として機能しています。その際に航海中で命を落とした人たちは、これまでで約27,000人にのぼります。そんな悲劇の場所として知られてきているこの島は、しかし生活している島民にとっての場所でもあります。そんな彼らの”生活”を撮りたいという想いから、この映画は始まりました。そして島との出会いの後、作品に登場する人々との出会いがありました。その中でも私にとって大きかったのが、バルトロ医師との出会いです。彼は、この島で移民や難民を受け入れる現場の前線にいた人物です。4年ほど前から、イタリアの国境が陸地でなく海に移されました。なので以前は難民の方たちが上陸してから受け入れられていたのが、海上で保護されるようになったのです。彼らはそのあとセンターで何日か保護され、イタリア国内に送られます。ですので、海を渡ってきた難民と島民は、触れ合うことがないのです。その双方を繋げているのが、バルトロ医師でした。この島で起こっていることは、まるでヨーロッパのメタファーのように感じられます。近いのに、コミュニケーションが取れないのです。

 

難民の玄関口として長年ランペドゥーサ島が機能し続けてきた理由は、島民と難民の生活が分かれていたからなのでしょうか。

この島はもう15年間ほど、アフリカからの難民の玄関口です。まだ国境が陸上にあった5-6年前と違い海上に移った現在、難民は上陸する前にセンターへ連れていかれる。もし陸上に国境があった頃にこの映画を撮影していたら、島の少年が難民たちとサッカーをしていた画を撮影出来たかもしれませんね。ですが現在、難民たちは夜間中に島のセンターへ移送されるので、島民の目に触れることはなく、物理的に触れ合うことがないのです。彼らはセンターで2-3日過ごしてから、また移動します。島民の方たちは我々と同様に、ニュースで難民のことを知ります。我々と同じ肌感覚で、情報を得ているのです。ですから島民たちは撮影後にこの映画を観て、とても驚いていました。彼らはセンターの場所も知らないのです。またランペドゥーサ島が地理的にアフリカに近いというのも、玄関口として機能してきた理由の一つです。ここはイタリアの地図の端っこに載っているような場所で、リビアやチュニジアにとても近い。

難民がヨーロッパに入る他のルートとして、モロッコやトルコなどもあります。特にトルコのバルカンルートは実に多くの難民が利用しています。ここ1年くらいヨーロッパは難民の量の多さに着目し、急に政治的関心が寄せられるようになりました。しかしランペドゥーサ島はもう20年程前から難民が漂着していたのに、世界はその事実を無視してきたのです。この作品がベルリンで上映されたとき、政治的な作品として扱われました。でも私は政治的な映画を作ったつもりはありません。そうではなく、私の撮っているフレームの外で、政治的なものが呼吸をしている作品なのです。私が作る映画というのは、なにより人間に焦点を当てています。人々との関係に目を向けているのです。ある時、なぜこのランペドゥーサ島はこんなにも移民を受け入れてきたのか、そうバルトロ医師に聞いたことがあります。すると彼は、とても美しい答えをくれました。「ランペドゥーサ島は、漁師たちの島です。漁師とは海からくるものは全て受け入れるものなのです」。これは美しいメタファーだと感じました。未知の存在を恐れず、受け入れるということ。私たちはこんなにも美しい彼らの魂を学ぶべきなのかもしれません。

 

ランペドゥーサ島の人々は、難民に対してどのような意識を持っているのでしょうか。

ランペドゥーサ島は、とても小さい島です。20,2k㎡の面積に、5,500人の住民が住んでいます。「アラブの春」が起こった時、チュニジアからこの島に何千人もの難民がやって来ました。その時、移民はそこへ永久的に滞在するような状況になりました。数ヶ月の間に8,000人もの移民がやってきたのです。その時は非常に危機的状況になり、ぶつかり合いも生まれました。人間というのは自分のテリトリーに誰かが入ってくると、どうしても軋轢がうまれるものです。しかしそんな状況であっても、ランペドゥーサの島民たち自分たちの家を開放し、食料や衣服を分け合うという寛大さを見せたのです。

 

この島にやってくる難民たちは、自分たちの身分証を持っているのでしょうか。

政治的難民や世界的情勢で認められた国交を持っている国の人は、自分のIDを死守して持っています。映画の中でも触れましたが、何か衣服などに包んで大切に持ってくる人もいます。特にシリアの人はそうですね。しかしソマリアの飢饉や、もしくは母国を捨ててまでの想いで逃げてきた人は、持っていない場合も多くあります。時には、どこの国か聞かれて違う国を口にする人もいます。とてもデリケートな問題なのです。

 

前作『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』もそうでしたが、この映画はドキュメンタリーにもかかわらず、劇映画のような瞬間があります。事件が起こるところに、カメラが先回りしているような印象を受けるほどです。しかしカメラで切り取られた画は詩的でとても美しい。撮影の際に心がけたことはどんなことがありましたか。

私の作品は「ドキュメンタリー」です。撮っているのは現実にいる「人物」です。脚本は一切書きません。そんな自分の製作で一番大切な仲間は、「時間」です。私はこの映画を作るにあたって、ランペドゥーサ島に一年半滞在しました。映画的言語を使用して、映画を語るのです。「シネマ」というものが、現実をより強いものにするのです。どんな監督や脚本家にも描けない真実を描く、そんな想いで映画を撮っています。フィクションとドキュメンタリーとで区別をしたくないのです。現実を切り取っていくなかで、真実を語る。その言語として、「シネマ」を使うのです。前作『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』はヴェネチア国際映画祭のコンペティション部門、今作はベルリン国際映画祭のコンペティション部門に出品されました。どちらもフィクション作品と一緒に並び、最高賞を受賞することが出来ました。ドキュメンタリーとフィクションの区別なく受け入れられたことは、大変嬉しいことでした。

 

日本は難民の受け入れに対して不寛容な国です。昨年は5,000人の難民申請があったのに対し、法廷認定されたのはわずか11人でした。この現実に対してどう感じますか。

映画の冒頭に警察が湾岸で「what’s your position」と問うシーンがあります。これは船の位置を確認しているのですが、あのシーンにはメタファーが込められているのです。つまり観客の皆様に、「あなたのポジションはどこですか?」と問いかけているのです。日本で上映して観て頂くことは、とても意義があることです。日本はとても豊かな国です。人口が1万人増えても、問題はないのではないかと思います。確かに日本の難民受け入れの数字をみてショックを受けました。このような態度は政治的敗北をさします。そしてそれは日本に限りません。ハンガリーは去年7名しか受け入れていませんでした。ここで私は昨年オバマ元大統領がスピーチで述べた言葉を思い出しました。「壁を作る国家は孤立する」。これは聞くべき価値がある言葉です。人間が暮らすためには世界を区切ってはいけないのです。
アメリカやヨーロッパ、また世界的に見ても、移民を受け入れられるかどうかに関する方針はどんどん変わってきています。私はこの作品が世界を変えことが出来るとは思いませんが、真実を知るきっかけになるとは思います。現在、この映画は46カ国で公開が決まっています。その国ごとに私は支え続けていかなくてはいけないと思っています。この映画は、きっと答えよりもたくさんの質問を生む作品だと思います。観客が劇場を後にしたあと、自分には何が出来るか、そう考えていただけたら嬉しいですね。

(2017年1月19日、イタリア文化会館で行われた記者会見より)

 

 

『海は燃えている~イタリア最南端の小さな島~』
監督:ジャンフランコ・ロージ 原題:FUOCOAMMARE
2016年/イタリア=フランス/114分
後援:イタリア大使館、イタリア文化会館
協力:国連難民高等弁務官(UNHCR)駐日事務所
推薦:カトリック中央協議会広報
配給:ビターズ・エンド
http://www.bitters.co.jp/umi/
https://www.fb.com/umiwamoeteiru/
Twitter @umiwamoeteiru

本年度ベルリン国際映画祭 金熊賞(グランプリ)
本年度アカデミー賞外国語映画賞イタリア代表 &ドキュメンタリー賞ショートリストW選出

2017年2月11日(土)より、Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー!

February 10,2017

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ジャンフランコ・ロージ 監督

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