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Cinemalaya Philippine Independent Film Festival 2016レポート vol.2「FULL LENGTH部門」

text: asako tsurusaki___

"Mercury Is Mine" by Jason Paul Laxam poster

 

前回に続き、「FULL LENGTH部門」の“Mercury Is Mine”についてのレビュー&Jason Paul Laxam監督インタビュー。

 

 

“Mercury Is Mine”
監督:Jason Paul Laxam
受賞:Special Jury Prize — Mercury Is Mine、Best Screenplay: Jason Paul Laxamana – Mercury is Mine、

フィリピンの地方都市、パンパンガ地方の田舎町で小さな食堂を営む中年の独身女性、カルメン。ある嵐の夜、彼女の元にひとりの白人少年マルキュリーが現れる。最初は疎ましがって追い出そうとしていたカルメンだったが、この片田舎において金髪碧眼という彼の風貌は店のいい宣伝になることに気づき、マルキュリーにフィリピン料理を教え込むことを思いつく。二人の奇妙で心地よい関係はずっと続くと思われたが、あることをきっかけに暗雲が立ち込めてゆく…。
既にコマーシャルやメインストリームで多く活躍していると同時に多くの映画祭で意欲的な作品を作り続けているパンパンガ地方出身のJason Paul Laxam監督による、フィリピンのカラッと明るい国民性と郷土料理の魅力が詰まったブラック・ハートフル・コメディ。
フィリピンの食堂と呼ばれるほど多様で有名な食文化を持つパンパンガ地方の魅力的な郷土料理の数々、そして短気で口が悪いけれど気の優しい良い女・カルメンを演じるフィリピンのコメディエンヌPokwangの演技が鮮烈な印象を残す逸品。郷土料理に象徴されるフィリピンのアイデンティティと、アメリカや白人に対する羨望の感情が浮き彫りにする被占領国として根強く残る傷痕が、アイロニーたっぷりにセンス良く散りばめられている。またタイトルに込められた”Mercury Is Mine”には、フィリピン人であるカルメンが抱くことになるアメリカ人のマルキュリーに対する執念や支配欲が象徴的に表れており、ここでもフィリピンとアメリカの奇妙で危ういバランス関係を物語っている。

 

■”Mercury Is Mine”のアイデアについて教えてください。

“Mercury Is Mine”は、決して私的な映画ではありません。この映画は、多くのフィリピン人が白い肌、特にアメリカ人に対して自然と憧れの感情を持ってしまうという現状を考察したところからスタートしました。どこかで読んだ記事にもありましたが、フィリピン人はアメリカをNo.1の国だと思っているんです。アメリカがアメリカ自身に抱く好感度を遥かに上回る程にね!それで僕は映画の中で、この現象を説明してみたくなったんです。この映画が、アメリカとフィリピンの曖昧な関係性を、なんとなくメタファーしているような作品になるといいなと思っています。

 

■作品に登場するキャラクターが全て魅力的でした。特にPokwang演じるカルメンが素晴らしかったです。あなたが描くキャラクターはみんなとても人間臭く、ずるくて嘘つきで、でも親切な顔を持っています。映画でキャラクターを描く際、最も大事なポイントはどんなことだと思いますか。

今回は天賦の才能を持った役者たちと演技指導の相乗効果もありましたが、キャラクターの”人間性”というものが脚本の段階から既に生まれ出ていたのだと思います。だから僕は、役者には脚本の内容に忠実に演技してくれるよう、指導を行いました。だってそうしないと、複雑に練られたキャラクター設定が妥協したものになってしまいますからね。また僕は脚本を書くとき、自分が作ったキャラクター自身になったつもりで書いています。
そしてその間は、自分の信義やモラルはちょっと横に置いておいて、キャラクターたちの心の中のダークな部分を探ります。犯罪者的な思考や対人操作、はたまた欲望だったり…、そんなキャラクターのコアとなるようなものは、人間のダークな部分でよく見つかります。このコアには、キャラクターの原始的な好奇心や欲求も含まれています。生存本能や貪欲さ、プライド、渇望など。エモーションは多くの場合、その次にやってきます。僕は脚本の段階で、エモーションを原始的欲求の次の存在として扱っているんです。

 

■この映画の最も魅力的なシーンは、料理の描写です。料理は命の源であり、また人と人をつなぐ有能な方法でもあります。料理のシーンはこの映画の中でどういう意味を持っているのでしょうか。

僕はフィリピン映画会の中でも、地方映画のスピーカーであると自負しています。本作”Mercury Is Mine”を含めて、僕の映画は自分の故郷でもあるパンパンガ州で撮影されています。ここは独特な言語(パンパンガ語)と文化を持った場所で、中でも先祖代々から伝わるパンパンガ料理は、その美味なことでフィリピン国内の料理の中心地として知られている程です。にもかかわらず、これまでパンパンガ語の映画でパンパンガ料理を描いた映画が上映されたことが今まで一度も無かった。すごく奇妙なことでしょう?これが、地方映画の担い手である僕が映画の中に料理を取り入れた理由です。
またこの映画では、料理をその土地が持つ財産のメタファーとしても扱っています。”Mercury Is Mine”の中でお客さんがカルメン食堂の料理を食べずに帰る人たちがたくさん登場しますが、これは彼らが既にマクドナルドを始めとするアメリカ・ブランドの食べ物を口にしていたからです。でもマルキュリーというアメリカ人のキャラクターがここの郷土料理を作って現地のフィリピン人に売ることをスタートした途端、彼らはこのローカルフードをひいきにし始めるのです。このアイロニーは、フィリピン人が白人をどのように見なしているのかという、僕の考察の一部に当たります。すごく極端に言うと、いまフィリピン人に必要なのは、アメリカ人を始めとする外国人に、フィリピンに代々伝わる文化を是認してもらう、ということなんです。フィリピン人自身が焦って自分たちのプライドを構築する前にね。ここにはそんな意味も込められています。

 

■今後の予定について教えてください。

”Mercury Is Mine”でフィリピンの商業的な配給にチャレンジしてみようと思っています。それと国際的な映画祭にも出品したいですね。その一方で、ある映画の撮影を進めようとしているところです。

 

 

 

「Cinemalaya Philippine Independent Film Festival 2016」について
日時:2016/8/5-14
会場:CCP(マニラ市)ほか・セブ市にて開催
http://www.cinemalaya.org

 

 

 

 

 

November 30,2016

"Mercury Is Mine" by Jason Paul Laxam

"Mercury Is Mine" by Jason Paul Laxam

"Mercury Is Mine" by Jason Paul Laxam

"Mercury Is Mine" by Jason Paul Laxam

Jason Paul Laxam 監督