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ニットクリエイター「an/eddy」蓮沼千紘インタビュー

interview & text : Hatsune Morikawa

EXTENSION

 

「2014 Tokyo新人デザイナーファッション大賞」にて、ユキヒーロープロレスとのコラボが話題となり、伊勢丹解放区やアーティストCharaへの衣装提供などニットクリエイターとして活動の幅を広げている蓮沼千紘。魂の果てまで編みたいというニットに対する熱い思い。そして、11月に開催される展示“extension”について話を聞かせて頂いた。

 

 

■なぜニットを始めようと思ったのですか。

とくに小さい頃から編んでいたわけではなく、文化服装学院2年生の時に第一希望だったアパレルデザイン科の進級試験を受けたのですが、試験開始3分ぐらいでお腹を壊してしまい、回答をほとんど白紙で提出したら落ちてしまったんです。それで第2希望に書いたニット科に入ることになりました。だから元々ニットをやりたくて入ったわけではないんです。母も祖母も編み物をしていたのでニットは身近な存在だったのですが、当時自分がデザインしていた服はもう少し感覚的に尖っていましたし、正直いってあまり興味はありませんでした。ニット科を第2希望にしたのは、自分はアパレルデザイン科に入るから大丈夫という自信があったのと、ニット科は就職率100%と聞いたからです。なので第2希望のニット科になった時には、同級生に「大丈夫?」と同情されたりもして、それがすごい悔しくて、だったら絶対にニット科で1番になって卒業してやる!卒業までに学院長賞を取る! と決意して猛烈に編み始めて、卒業制作では学院長賞を取りました。

 

■ブランド名「an/eddy」 について教えて下さい

「an/eddy」というブランド名は高校三年生の時に決めました。英語の授業がつまらなくて辞書をずーっと見ていたらその中に「an eddy=小さな渦」というのを見つけて、これいいなって。“/ スラッシュ”を入れたのはanとeddyって女性と男性の名前っぽいから、ゆくゆくはメンズもやりたくて入れました。

 

■当時どのようにして自分の服を紹介していたのでしょうか?

まだ服飾学生ではなかったので洋服は作れなくて、携帯電話でウェブサイトを作り、リメイク品を販売することから始めました。専門学校に入ってからは授業で習ったシャツを応用しリメイクして、それを販売して自分の収入にしていました。だから今までバイト経験はないんです。

今のようにSNSもなかったので情報を広げることが難しくて。街に出てお洒落な人にスナップを撮らせてもらい、それをサイトに掲載し、するとスナップされた人たちは自分たちが載っているからサイトにアクセスしてくれる、そこで私が作って販売している服を見てくれて、気に入ってくれたら買ってくれる。そういうサイクルになっていました。スナップを撮らせてもらった子の中にはたまたま雑誌の読者モデルをしている子もいて、雑誌で身に付けてくれることもありました。

2年生でニット科に入って「an/eddy」がハンドニットのブランドになってからは、今とは少しテイストが違う原宿のDOGというショップで取り扱ってもらったり雑誌「FRUiTS」で誌面通販の機会をいただいたりするようになりました。

 

■コンセプトは特に決めないと聞きましたが。

そうですね。卒業してから3年間アパレル会社でデザイナーをしていて、その時はきちんとターゲットを考えてデザインしていたのですが、元々学生時代からターゲットやコンセプトは考えていなくて、純粋に頭の中で生まれてくるデザインを編んでニットという形にしたり、やりたいことをやるなどいろいろなアイデアを実行することの繰り返しでここまで来ました。

 

■その思いつくインスピレーション源はなんでしょうか。

日常生活の中で思いつきます。一番思いつく時はやっぱり編んでいる時です。いろんなことを編みながら同時に脳で考えているので、それが連鎖してアイデアを思いつくことが多いです。

 

■蓮沼さんは編むスピードが尋常じゃないほど早いですよね。編んでいるとき音がするそうですが。

自分の手の動きが目で追えないんですよ。何目編んだのか数えられないから、リズムと糸同士がくぐる音を聞いて数えるようにしています。その話を、音楽をやっている友達に話したら、面白いからその音をサンプリングさせてほしいということになり、曲を作って貰ったこともあります。最終的には手編みの音だと精密に取れなくて編み機の音になってしまったのですけど。編機は手で動かすので手編みという枠組みで針の出し入れの音を使ったりしました。

 

■技法としているのは何編みでしょうか。

学校では全部学んでいるので、機械編みも棒針編みも出来ますが、鈎針編みが主です。冬は棒針も混ぜてすることがありますが、鈎針編みが一番早く編めて、形にし易く自分のスタイルには合っている気がします。

 

■ご自身ひとりですべて編んでいるのでしょうか?

よく「アシスタントはつけないの?」と聞かれたりしますが、私の場合デザインするだけではなくて、私が編むことに意味があると思っているので、人に編むことは任せられなくて。なので、一般的にデザインをして製作を工場やニッターさんなどに委託する“デザイナー”とは違い、自分のことをニット“クリエイター”と言っています。

特に手編みは編み手が違うと風合いも変わってしまうので、自分以外の人に編むことをお願いするのは難しいです。「an/eddy」というブランドのストーリー性やアイデアは私の日常から生まれてくるので、自分の生活や人とのつながりが作品のコンセプトに直結しています。なので、SNSのアカウントなども私個人とan/eddyというブランドは分けずに同じにしています。

 

■自分が想像していたことと全く違うことが起きているということもあるわけでしょうか

以前トークイベントに出た時に、10年後には何をしていますか?どうなっていたいですか?と聞かれたんですが、私にはなくて。3年後は店舗を持ちたい、10年後は海外進出したいと具体的な計画があって、それに向かって逆算して動く人もいると思うのですが、私は意識的に何年後にはこうしたい、ああしたいといったことが特にありません。無意識に自分の希望はあるのかもしれないのですが、その希望は今、叶っているのかなっていう感じです。

 

■それはなぜだと思いますか。

なぜだろう。ポートフォリオもNYでの合同展示があるまで作ったことがなかったし、名刺も今年つくりました。営業をすることがなかったんです。本当にただ編みたいと思ったものを編んではSNSなどで発信することをやっていて、それをキュレーターの方やバイヤーの方がキャッチしてくれて。Charaさんのライブ衣装もスタイリストの小川恭平さんがWALL原宿店で私の作品を見かけたのがきっかけです。

 

 ■衣装提供したことで変わったことはありましたか。

アーティストの方々がライブやテレビで作品を身に着けてくださったことで、アーティストのファンの方たちがそれまで知らなかった「an/eddy」に興味を持ってくださって個展や催事に足を運んでくれる方が増えました。

もともとの「an/eddy」のお客様たちもイベントなどで何度も顔を合わせるうちに仲良くなっていたり、Instagramのハッシュタグ検索でそれぞれが持っている「an/eddy」の作品の写真にコメントし合ったりしていて、「an/eddy」を通して新たなコミュニケーションが生れていることに驚きと喜びを感じています。

 

■以前ニットは「行為」とおっしゃっていたのはそういうことでしょうか

ニットというファッションアイテムそのものよりも、ニットと私のスピリチュアルな関係性や思想とかも含めて私のファンになってくれる人が多いです。私は編んであるニットの生地をカットしてソーイングしたものはニットソーと呼んでいて、編むことだけで形が整形しているものだけがニットだと考えています。だから編み目にハサミを入れてリメイクをしたりするのはあまり好きじゃなくて、自分が編んで、編むことで形作ることが1番美しいし、きちんとはぎ合わせた方が長く着ることができる。編み目にロックミシンをかけても結局は解けてきてしまうし、縫い代をかけなくて編むだけで出来るものこそがニットだと思っているので、ニット右翼って言われたりすることもあります。この前maiceとコラボをした時も、私が編んだ物をカットしたりミシンで縫い合わせれば早く出来るのですが、私はそういうのが嫌いなので、全部手で接ぎ合わせてくれてすごく大変そうでした。でも相手もそういうことを理解してくれて、結果としてはとてもいいものができたと思います。

 

■作品はどれもニットなのに生々しい、生き生きしているように感じます。

東コレで、ユキヒーロープロレスさんとのコラボで参加した時に、Fashionsnap.comの記事で、伊勢丹の寺澤さんが「編みすぎている(もちろん良い意味で)」。と書いていました。私が編むニットはバレッタ一つとってみても生命力を感じるといっていただくことがあります。私がニットをアイテムとして扱っているのではなく編む行為を大事にしていて、そこに自分自身が宿るという想いをもって編んでいることがあるのかもしれません。

私は編んだパーツをトルソー上で組んで形作ることが多くて、その時、ふと皮膚と皮膚とを縫合しているような気持ちになって将来医療現場で体内の臓器を編みくるむとかそういったことを妄想したことがあります。作品の撮影はリアルクローズのように別のアイテムとコーディネートを組んだりせずに編んだ作品だけをモデルさんに着てもらって撮ることが多いです。あくまで「an/eddy」の撮影はLOOKBOOKのような着こなしの撮影ではなく、コンセプトの意図が伝わることを目的にしています。

 

■企画展でヒットした商品があってもそれ以降は量産しないそうですが。

企画展に参加する時は、企画者発案の企画内容にあわせて作品製作をするので、どんなに作った作品が人気であっても、その企画展が終わったあとに販売したり、別の場所で販売するということはしたくありません。

だからこそ、みなさんがなんとか会期中に足を運ぼうとしてくださるし、その方たちの気持ちを大事にしたいので、企画展が終わった後はこれからも販売しないつもりです。それが企画者やお客様への信頼につながるかと思います。「欲しい」と思ってくださる方が多いのに対して、編み手は私一人なので供給がおいつかないこともあります。しかし、一つ一つ特別なものを編むためにはその現状も仕方ないと思っています。そのために価値を損ないたくないという気持ちのほうが強いです。

 

■NYで合同展示会もおこなっていましたが、また海外で展示会をやりたいと思いますか?

やりたいですね。NYでの展示会を見てくれた人が来年はNYで撮影しようよと声をかけてくれたり、WALLや伊勢丹で作品を購入してくださる方に海外の方も多くいますし、Instgramでは海外からのコメントが増えたりもしています。海外の人から、私も編み物をしているけど貴方の編み方どうなっているの?わからないから教えてと言われたりすることもあって。海外では鈎針編みのほうがチープだと思われているようですが、私の編む鈎針編みは見た感じ何編みかわからないらしく、興味を持ってもらえているみたいです。一概には言えませんが日本人よりも海外の方のほうが私の衣装っぽい派手な作品を日常に取り入れやすいのかなと思ったことがあります。

 

■最後に11月に開催されるextensionについて教えて下さい。

自分の中で「人間は自分の毛は剃るのに他の動物の毛を身に着ける不思議な生き物だな」「他の動物の毛を身にまとって何になりたいんだろう、それってものすごくエゴイズムだな」と前々から思っていました。だったらリアルな毛皮よりもフェイクを技術やセンスで“本物”にするほうが人間らしいし、フェイクを本物に編み上げることが私だったらできるのではと考え、それでフェイクファーの中に人毛のフェイクファーとしてエクステンションを使うアイディアを思いつきました。

ヘッドピースやヘアメイクに使用するだけではなく洋服作品の中にも毛糸と一緒にエクステを編み込んでどこからがエクステで、どこからが糸かわからなくしたり、リボンを編み込んだり、全体的に異素材をミックスしています。

展示会名をextensionにしたのは人毛としてのエクステンションという意味よりも「付け足して伸ばす」とか「拡張する」という言葉の意味にフューチャーした結果です。「an/eddy」のテーマには二面性を持っているものが多いのですが今回もテーマが二軸あります。

まず本編では「自分自身にもともとあるものに別のものを付け足すことによって自己の輪郭が曖昧になること」を表現した作品作りをしています。そしてもうひとつ、スピンオフでは毛のプロである美容師さんたちに参加してもらい「an/eddy」の作品を使って作品撮りをしてもらいました。その目的は「an/eddy」が私の手を離れたその先でどんな使われ方をするのか俯瞰すること、他人の世界観に「an/eddy」を存在させることで結果的に「an/eddy」の輪郭を明確にできると考えたからです。

また、同じブランドの同じテーマの作品を使うことで、より各サロン、各スタイリストの個性が見えやすくなるのではないかと思いました。これも自己の輪郭が明確になるというテーマになぞらえることができると思います。extension では“融解していく輪郭”と“明確になる輪郭”のふたつがキーワードになっています。

 

 

an/eddy2015
“extension”
会期:2015年11月20日-12月3日
場所:WALL原宿店、大阪店、福岡店。
三店舗同時開催。

 

 

an/eddy
“extension”
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瀬尾千夏  DaBdaikanyama
佐藤麻衣子 kilico.
鈴木昂司  vetica
工藤未希 boycameraharajyuku
嶋津一馬 CODE+LIM
(順不同)

 

 

 

 

November 22,2015

EXTENSION

TOKYO COLLECTION 2014

TOKYO COLLECTION 2014

TOKYO COLLECTION 2014

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