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山形国際ドキュメンタリー映画祭2015レポート

text : Asako Tsurusaki

「山形国際ドキュメンタリー映画際2015」ポスター

写真提供:山形国際ドキュメンタリー映画祭事務局

 

国内外の映画ファンと映画業界人が待ちかねていた、「山形国際ドキュメンタリー映画祭(YIDFF)」が今年も熱気を帯びて開催された。アジア初の国際ドキュメンタリー映画際として始まったこの映画祭も今年で14回を迎え、なかでもインターナショナル・コンペティションとアジア千波万波の2部門には、世界124の国と地域から1,874本という過去最多の応募作品が届き、国内外からの本映画祭に対する期待の大きさが始まる前から感じられていた。

 

 

大きな盛り上がりを見せた前回同様、2015年度の多彩なプログラムも期待を煽る。世界中の”NOW”を反映した「インターナショナル・コンペティション」、アジアの大海原から新鮮な驚きを与えてくれる「アジア千波万波」、変わりゆくアラブ世界の現在と過去に真摯に向き合う「アラブをみる――ほどけゆく世界を生きるために」、そして今回の特集に挙がったのは、これまで日本でほとんど紹介されてこなかった1960~80年代の社会変革へ挑んだ時代から現代までを俯瞰したラテンアメリカ・ドキュメンタリーを扱った「ラテンアメリカ――人々とその時間:記憶、情熱、労働と人生」、ほか9部門がプログラミング。また現場の生の声を聞くことが出来るワークショップやシンポジウムなども企画され、実に8日間ではすべてを網羅しきれないほどの濃い時間が流れていた。

 

 

世界の最新ドキュメンタリー映画を多く紹介し、また映画を愛する人たちや映画作家が行き交うYIDFF。特に今年度に紹介された作品は、祖国や家族の記憶を辿るドキュメンタリーが多かったように感じた。そんな大海原のほんの一端に過ぎないが、2015年度上映作品よりいくつか紹介しよう。

 

 

<インターナショナル・コンペティション>部門

 

『ホース・マネー』
(ポルトガル/2014/104分 監督:ペドロ・コスタ)
今回の映画祭で大賞を受賞したのは、YIDFFの名誉市民と呼ぶべき存在、ペドロ・コスタ監督による『ホース・マネー』。前作『コロッサル・ユース』に続いて、リスボン郊外のスラム街フォンタ・イーニャス地区に生きる老いた移民者ヴェントゥーラが経験したカーネーション革命を軸にした、苦しみの記憶を辿る旅路だ。
「これは、私とヴェントゥーラにとって最後の映画になると思います。祖国で起こった失敗した革命の悲しい記憶を忘却するために描きました。その時私は13歳で、革命に加わりながら女の子や音楽と幸せに生きていた。しかし同じ時同じ場所で、友人のヴェントゥーラが恐怖に苛まれながら移民局から身を隠していたことを、愚かにも知らなかった。彼が”牢獄”と呼ぶ時間の記憶を忘れるため、私たちはこの映画を作ったのです」。
監獄のごとき病院、過去を語りかけてくる兵士の亡霊、かつて時を過ごした廃墟の工場や戦車。いくつものアイコンがヴェントゥーラを悲しみの記憶に呼び戻し、揺さぶろうとする。その折々で監督ペドロ・コスタはヴェントゥーラを過去から引きずり出し、未来へと進む姿を見届けようとする。本作は2014年のロカルノ映画祭で監督賞を受賞した。

公開決定 配給:シネマトリックス

 

『わたしはここにいる』
(ペルー、スペイン/2013/120分 監督:ハビエル・コルクエラ)
ペルーを形成する3つの地域-アマゾン、アンデス、海岸部のリマを巡り、その地に生きる人々の言葉と音楽で綴った一大叙情詩、『わたしはここにいる』。アマゾン川流域のアマソナスに住む女性が「無くなった水」のために歌う、嫌しの歌。水が貴重なアンデス高地のアヤクーチョで一年に一度の祭りで女性たちが「水よ来い」と歌う、インカ時代以前より伝わる歌。そして海岸の街で歌いながら「音楽の輸血」と称して演奏を重ねるミュージシャンたち。
「映画の構成の根底に流れているのは、水の流れです。アマゾンの源流から流れた水がアンデスの川に流れ、そしてリマの海へと流れてゆく。ペルーは基本的に農業国です。なので民衆の歌は常に水のことを歌っています。今日でも、ペルーにとって水とは大きな問題です。そして水を守ろうとした抗議運動のため、亡くなった人間もたくさんいます。大規模な鉱山開発や石油開発によって、アマゾンは大変搾取・破壊されています。アマゾンの歌い手が、”水が枯れてしまう、だから私は歌う”と言っているのもそのことを表しているのです」。
タイトルの『わたしはここにいる』は、長い間会っていなかった人と出会った時に言う、ケチュア語の挨拶。「いろんなことがあったけれど、まだ私たちは私たち自身である」を伝えることを意味する。監督いわく、「ペルー」という国は存在しない。それはひとつの”かたち”に過ぎなず、そのひとつの国の中にいくつもの国がある、と言う。アマゾン、ペルー黒人文化、アンデス、リマ…。果てしなく多彩なアイデンティティがまだ”私たち自身”でいることを、歌を通じて感じることが出来る。ペルーの表情豊かな風景が、圧倒的な自然と音楽で彩られる贅沢な一本。

 

『真珠のボタン』
(フランス、チリ、スペイン/2015/82分 監督:パトリシオ・グスマン)
全長4300キロ以上に及ぶチリの長い海岸線。その海の起源はビッグバンまで遡る。海、そして水は人類の歴史をも記憶している。
そんな壮大な冒頭より始まるこの作品は、徐々に人類の犯した悍ましい数々の虐殺行為につながってゆく。チリ南部に位置する西パタゴニアに住んでいた、水と星を崇める先住民たちの虐待。そしてピノチェト独裁政権下の政治犯とされた人々。彼らはみな、生まれた”水”の中に返ってゆく。同じ海の底で発見された「真珠のボタン」がきっかけとなり、圧倒的な自然美と流されてきた多くの血や失われた声を我々見るものに伝えてくれることとなる。
美しい自然美を切り取るロマンチストであると同時に、チリの自然や地形を再認識するために長大な地図を制作し、そして政治犯の虐殺が行われた方法を再現するなど、徹底したリアリズムの目線で厳しく描くサンティアゴで生まれたパトリシオ・グスマン。軍事クーデターで処刑の恐怖を味わった経験を持つグスマン監督だからこそ、厳しい追及の姿勢を続けているのだろう。本作は2015年ベルリン国際映画祭にて銀熊賞脚本賞を受賞した。

10月23日より公開 配給:アップリンク

 

<アジア千波万波>部門

 

『太陽の子』
(フィリピン、アメリカ/2013/64分 監督:ジム・ランベーラ)
近年、活きのいい若手映像作家が多く国内外で評価を得ているフィリピン映画。今年のYIDFFでは祖国での忘却や記憶をテーマにした作品が多く見られたが、この『太陽の子』も祖国フィリピンの植民地の記憶、そして監督自身が体験した生地BatangasのBaleteという神秘性が今尚息づく生地、Batangasでの記憶を描いた意欲作だ。
監督が幼少期共に生地で育ったアルビノの少年。その肌が白いことから「カーノ(=アメリカ人)」と呼ばれていた少年の記憶を通じ、植民地の幻想とフィリピン人である自身のアイデンティティ探る旅が詩的に綴られるている。本作は10月末より東京で開催される「Rising Indies!」でも上映されるのでお楽しみに。
(※『太陽の子』ジム・ランベーラ監督のインタビューは後日紹介)

Rising Indies! in Tokyo 詳細
http://happytent.wix.com/happytent

 

 

YIDFF2015の受賞作品は以下の通り。

「インターナショナル・コンペティション」部門では、ペドロ・コスタ監督『ホース・マネー』(ポルトガル)がロバート&フランシス・フラハティ賞(大賞)を、パトリシオ・グスマン監督の『真珠のボタン』(フランス、チリ、スペイン)が山形市長賞(最優秀賞)を受賞。また優秀賞にはアッバース・ファーディル監督の『祖国 ― イラク零年』(イラク、フランス)とオサーマ・モハンメド監督+ウィアーム・シマヴ・ベデルカーン監督『銀の水 ― シリア・セルフポートレート』(フランス、シリア)が受賞、特別賞にはフリア・ペッシェ監督の『女たち、彼女たち』(アルゼンチン)が選ばれた。
そして「アジア千波万波」部門ではマーヤ・アブドゥル=マラク監督『たむろする男たち』(フランス、レバノン)が小川紳助賞、ダニエル・フイ監督の『蛇の皮』(シンガポール、ポルトガル)と奥間勝也監督の『ラダック それぞれの物語』(インド、日本)が奨励賞を受賞。観客の投票による市民賞には「インターナショナル・コンペティション」部門の優秀賞と並んでアッバース・ファーディル監督の『祖国 ― イラク零年』が選ばれた。

 

山形国際ドキュメンタリー映画祭事務局
tel: 023-666-4480 / e-mail: info@yidff.jp
http://www.yidff.jp

 

 

 

 

October 21,2015

『ホース・マネー』(ポルトガル/2014/104分 監督:ペドロ・コスタ)

『わたしはここにいる』(ペルー、スペイン/2013/120分 監督:ハビエル・コルクエラ)

『真珠のボタン』(フランス、チリ、スペイン/2015/82分 監督:パトリシオ・グスマン)

『太陽の子』(フィリピン、アメリカ/2013/64分 監督:ジム・ランベーラ)